介護・福祉

増える高齢者に『セーフティネット住宅』は、強力な居住サポートとなるのか?

皆さんは「セーフティネット住宅」という賃貸住宅をご存じでしょうか。

セーフティネット住宅とは「住宅セーフティネット制度」に基づき登録され、高齢者や障がい者などの住宅確保要配慮者※(以下「要配慮者」)の入居を拒まない賃貸住宅のことをいいます。

※ 住宅確保要配慮者・・・低額所得者(月収 15.8 万円以下)、被災者(発災から3年以内)、高齢者、障がい者、子育て世帯(子が高校生相当以下)、外国人等の住宅確保に配慮を要する方々のこと

2017年10月からスタートした住宅セーフティネット制度は、増え続ける“空き家”を活用できる制度でもあるため、私自身としては広く利用されるようになることを期待している制度の一つとなります。

参考記事:管理されない空き家の未来 ~「特定空き家」・「管理不全空き家」とは~

今回は、2024年5月に改正案が可決・成立した「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律」を含めセーフティネット住宅について解説していきます。改正法の施行は2025年秋頃とされていますが、賃貸物件の空室に困っている大家さんや、空き家を所有している方はもちろん、住まいで困っている要配慮者の方々に少しでも情報が早く広まればと思いまとめていきます。

『セーフティネット住宅』とはどういった賃貸住宅?

住宅セーフティネット制度の根幹は「公営住宅(※)」です。しかし公営住宅は、なかなか入居できない(抽選に当たらない)といった話は有名で、「何年待っても当選しない」、「もう諦めた…」という話も聞きます。

さらに、老朽化した公営住宅を改修できないという国の財政的な問題もあり、今後も戸数増加が見込めない状況だといわれています。

募集倍率が高い上に、戸数が増えない(財政的な問題)となると、今以上に公営住宅に入居するというのは難しいということになるでしょう。

しかし、応募倍率が高い物件もあれば、不便な地域にあり応募者が全くいないような公営住宅もあり、そういった点も解決しなければいけない課題となっています。

※ 公営住宅・・・公的機関(国や地方公共団体)が提供する住宅で、主に低所得者や住宅に困窮する人々に低廉な家賃で提供される賃貸住宅

そこで期待されているのが“民間の空き家”や“賃貸住宅の空室”です。

そのような住宅を「住宅セーフティネット制度」に登録することで「セーフティネット住宅情報提供システム」というサイトに掲載され、入居希望者にアプローチすることができます。2025年5月現在で、掲載総戸数(全国)は95万戸相当になります。

住宅セーフティネット制度の『登録基準』

住宅セーフティネット制度を利用し賃貸住宅を登録する際には、その規模、構造等について一定の基準をクリアする必要があります。

「住宅の登録基準」/国土交通省

登録基準には、規模や構造・設備、賃料など詳細に決まりがあります。

部屋の規模(床面積)ですと、各戸25㎡以上となります。これは、国土交通省が定めている「住生活基本計画における居住面積水準」によるもので、単身者に最低限必要な居住面積(最低居住面積水準)とされています。分かりやすく間取りで説明すると、8畳の1Kや11畳のワンルームがおよそ25㎡以上となります。

「住生活基本計画における居住面積水準」/国土交通省

しかし、一般的なワンルームの広さは13~20㎡程度、6~7畳が目安となります。そのような賃貸住宅は、現状では登録することが難しいでしょう(シェアハウスを除く)。

構造では、耐震性があること(新耐震基準に適合)や、居室、台所、食堂、トイレ、浴室、洗面所など設備を適切に設けること、賃料に関しても「近傍同種の住宅と均衡を失わないこと」とあるように、近隣の同レベルの賃貸住宅に賃料を合わせる必要があります。

『登録住宅の改修支援』

セーフティネット住宅として登録する場合は、改修支援として“改修費”に対する補助制度があります。

「改修費補助の概要」/国土交通省

改修費補助を受けた住宅については、「セーフティネット専用住宅」となり、10年間は入居者を要配慮者に限定することとなりますが、要配慮者の範囲や条件は所有者の希望で決めることができます。例えば「障がい者の入居は拒まない」、「高齢者の入居は拒まない」等、条件を設けて登録することができます。

改修費の補助があることは、賃貸経営者である大家さんでも知らない方が多くいらっしゃいます。空室が多く、入居者が決まらない賃貸物件を所有している大家さんは、思い切って住宅セーフティネット制度を利用してみるなど、「入居者を増やす」・「社会貢献」の目線を持つことが必要なのかもしれません。

「セーフティネット専用住宅改修事業」/一般財団法人 住宅保証支援機構

また、高齢者施設等へ住み替えをするため自宅が“空き家”になってしまう方や、後々そういった自宅を相続する方も、住宅セーフティネット制度を利用し、要配慮者の方々に貸し出すという案を検討してみてはいかがでしょうか。

今後『セーフティネット住宅』が必要な理由

高齢者や障がい者など、住宅確保に配慮が必要な要配慮者は今後も増加が見込まれています。

特に高齢者に焦点をあててみると、高齢者世帯は2030年には約1,500万世帯を超え、そのうち単身高齢者世帯は、約900万世帯に迫る見通しだと報告されています。

「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)等の一部を改正する法律※等について」/国土交通省 住宅局

さらに、日本で働く“外国人”も増えています。厚生労働省によると、日本における外国人労働者数(2024年10月末時点)は230万人を超え、過去最高を更新したそうです。日本の人手不足を背景に、各企業が採用を強化したことが理由の一つとして考えられます。

賃貸住宅は、持ち家に比べて気軽に引っ越しをすることもでき、自由度が高いのが魅力ですが、働いていない高齢者や、外国人、その他の要配慮者の方々は入居を断られるケースも多いといいます。

参考記事:高齢者の“賃貸住宅”問題 ~借りることが難しい現状~

そういった様々な面から、「セーフティネット住宅」が今以上に広がることが必要だと考えられています。

『住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律』

国土交通省では、今後、高齢者、低額所得者、障がい者などの増加により要配慮者の賃貸住宅への居住ニーズが高まることが見込まれている中、賃貸住宅を所有している大家さんの多くが、要配慮者の孤独死や死亡時の残置物処理、家賃滞納等に対して懸念を持っている方が多くいるといいます。

そのため、2024年5月に改正案が可決・成立した「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律」では、以下の3点を柱として改正されました。

要配慮者が安心して生活を送るための基盤となる住まいを確保でき、賃貸住宅に円滑に入居できるための環境の整備を推進することとされています。

「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)等の一部を改正する法律等について」/国土交通省住宅局 安心居住推進課

まとめ

今後の日本にとって、住宅セーフティネット制度に物件を登録することは「社会貢献度の高い行動」ともいえるでしょう。しかし、賃貸経営者として大家業を営んでいる方は“ビジネス目線”も必要です。住宅セーフティネット制度に興味のある方は、まず居住支援協議会に相談してみて下さい。

※ 居住支援協議会・・・それぞれの地域において、要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進に関し、必要な措置について協議をするために、自治体、宅建業者や賃貸住宅管理業者等の不動産関係団体や居住支援団体等で組織され支援を行っている

今後、要配慮者が増える現実と、同じく増える“空き家”や“賃貸住宅の空室”が上手くかみ合うことで、居住サポートの一つになればと考えています。さらに、登録するためには条件もありますが、賃貸経営を行う大家さんにとって空室対策の一つとして活用できる仕組みとなることを期待しています。

今回の住宅セーフティネット法の改正で、今後、空き家や空室の多い賃貸住宅を提供してくれる方々が増えれば、これまで様々なリスクなどを理由に部屋を借りることができなかった要配慮者の方々も、賃貸住宅へ入居しやすくなるでしょう。

一方で、要配慮者(入居者)によっては「モラルの低下」や「治安維持の問題」等など住生活に関わる問題が発生することも想定しています。今こそ、自治体や地域企業・商店、地域住民による「地域福祉の充実」や「地域住民同士の助け合い」が必要とされる時代なのだろうと思っています。

須崎 健史
執筆・監修 須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役) 宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。