介護・福祉

一人暮らし高齢者が頼れる生活支援制度 ~日常生活自立支援事業と成年後見制度の違い~

少子高齢化が進む中で、一人暮らしの高齢者が増加の一途を辿っています。

「令和2年国勢調査結果」によると、65 歳以上人口は3602万6632人で、平成27年の前回調査では3379万0006人だったため、223万6626人増えていることが分かります。

そのうち、65 歳以上の単独世帯数は、男性230万8171人、女性440万8635人、合計671万6806人。65 歳以上人口に占める割合は 19%となっており、65歳以上の約5人に1人が一人暮らし高齢者なのです。

「令和2年国勢調査結果」/総務省

日本では、高齢者の抱える生活上のリスクや病気や健康面、いざという時に対して家族が対応してきたことが多いと考えられています。しかし近年の日本では、一人暮らし高齢者が急増し今後も増えていく中で、高齢者本人や離れて暮らす家族の多くが様々な問題に直面することが予想されます。社会問題として捉え、対応していかなければいけない課題であるといえるでしょう。

今回は、そんな一人暮らしの高齢者が頼れる支援制度を解説していきます。現在一人暮らしの方はもちろん、ご夫婦やご家族で暮らしている方も今後の参考にして下さい。

「日常生活自立支援事業」と「成年後見制度」

高齢者が頼れる支援制度には、「日常生活自立支援事業」と「成年後見制度」があります。

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などが理由で、意思能力や判断能力が不十分な人を保護・支援するための制度です。制度の内容については、下記のコラムで詳しく解説しているのでぜひ参考にして下さい。

関連記事:不動産の終活 ~認知症に備えた財産管理~

日常生活自立支援事業とは、成年後見制度と同じように認知症、知的障害、精神障害などのうち、判断能力が不十分な方、一人では日常生活に不安のある方が安心して自立した生活が送れるよう、福祉サービスの利用援助などを行うものです。

日常生活の範囲が中心で、あくまでも本人の意思が尊重される支援であり、日常生活自立支援事業とは主に下記の内容となります。

注意しておきたいのは、医療行為の同意や施設入所に伴う身元引受人や保証人の対応は行うことはできません。また、外出援助やヘルパーの方が対応するような買い物、確定申告等もできないことになっています。

「日常生活自立支援事業」を利用するまでの流れ

日常生活自立支援事業は、全国的なネットワークを有する「都道府県社会福祉協議会」または「指定都市社会福祉協議会」が主体となっています。ただし、事業の一部を「市区町村社会福祉協議会」や「社会福祉法人」などに委託することが認められているので、実際の相談やサービス提供は、市区町村の社会福祉協議会が窓口となっています。

実際の援助は、社会福祉協議会に所属する「専門員」や地域から派遣される「生活支援員」が行うことになります。

※社会福祉協議会とは…地域の住民や福祉・保健の関係者、行政機関、ボランティアなどによって構成されていて、全国すべての市町村にネットワークがあり地域福祉を推進する公共性の高い団体

弊社の活動地区である、東京都立川市・国立市・国分寺市の社会福祉協議会のホームページを記載しておきます。

【立川市社会福祉協議会】

【国分寺市社会福祉協議会】

【国立市社会福祉協議会】

「日常生活自立支援事業」と「成年後見制度」の違い

前述では「日常生活自立支援事業」の支援内容や利用方法などをお伝えしてきました。ここからは、同じ高齢者を支援する「成年後見制度」との違いについて比較してみます。両者の違いを知ることで、今の自分に必要な支援を選ぶことができるでしょう。

私は、日常生活自立支援事業は成年後見制度の“一歩手前の手段”だと考えています。

成年後見制度は、意思能力や判断能力が不十分な人を保護・支援するための制度であるため、認知症が進んでしまった高齢者や、重度障害を抱える方が対象になります。

※成年後見制度では、まだ判断能力がしっかりしている段階で、将来自分の判断能力が低下した場合に備える制度「任意後見」もあります。

そして、日常生活自立支援は、大体のことは自分でできるものの「日常生活に少し不安がある」「少しだけ手助けしてほしい」という場合にも利用できます。「成年後見制度は少し大げさかも…」という方にピッタリのサポートになります。

「成年後見制度はフルサポート」、「日常生活自立支援事業は補助サポート」とイメージすると分かりやすいですね。

しかし、誰しも年齢を重ねるにつれて身体能力や判断能力は低下していきます。日常生活自立支援を利用していても、今後のために成年後見制度を併用する、時期がきたら日常生活自立支援から成年後見制度に移行するなどして、支援を受け続けられる環境を維持したいものです。

まとめ

高齢者の一人暮らしでは、身体能力や判断能力の低下によって、買い物や調理、掃除など、日常生活を送る上で不便なことが増えてきます。自立した生活を送れる状態であっても、災害時の様な“いざという時”の不安もあるでしょう。

そういった高齢者が自分でできる対策としては、日頃から自分の健康状態を把握しておくために、かかりつけの病院や自治体が実施している“健康診断”を受診したり、自治会や町内会に加入し、地域や近隣の住民と接点を持つことで、困ったことがあれば相談できる繋がりを作っておくことなどが重要です。自治会によっては、災害発生時に安否確認を行う自治会などもありますので、災害時の観点からも参加しておくと安心です。

そして、ご自分の体調と相談しながら「日常生活自立支援事業」や「成年後見制度」を利用しましょう。小さな不安でも一人で抱え込まずに、まずは相談することが大切です。

もし身近に一人暮らしの高齢者や家族がいる場合は、こういった支援サービスについて教えてあげると喜ばれるかもしれません。

須崎 健史
執筆・監修 須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役) 宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。