全ての人が暮らしやすい『ユニバーサルデザイン住宅』バリアフリーとの違いとは?
皆さんは「ユニバーサルデザイン」という考え方をご存じでしょうか?
ユニバーサルデザインとは、調整または特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲で全ての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービス設計のことをいいます。近年では、この考え方を採用した建物や製品などが増え、毎日の生活の中で見かけることも多いと思います。
今回は、ユニバーサルデザインが具体的にどのような考え方なのか、また、バリアフリーとの違いや、住宅への取り入れ方について解説します。ユニバーサルデザインを取り入れた住宅は、「誰にとっても住みやすい家」といえます。ぜひ参考にして下さい。
ユニバーサルデザインの考え方が必要な理由
ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた建物や製品が増える背景には、少子高齢化や障がい者・外国人の増加など社会環境の変化や、ライフスタイル・価値観の多様化が挙げられます。そういった変化に対応していくためにも、今後は、多くの方が同じものを同じように使える環境や建物、製品を増やし、便利にしていくことを目指す考え方「ユニバーサルデザイン」が必要不可欠なものとなってきているのです。
ユニバーサルデザインを広めるための、「ユニバーサルデザインの7原則」を紹介します。
実際にユニバーサルデザインを取り入れる際、この7原則すべてを守らなければいけない、というわけではありません。作り手が可能な限り多くの人の要求に応えられるよう、理想を目指すための指針とされています。
身近なユニバーサルデザイン
それでは、どのようなところにユニバーサルデザインは取り入れられているのでしょうか。私たちが生活の中で目する身近なものを取り上げてご紹介します。
【幅の広い改札】
幅の広い改札は車椅子の人が利用しやすいということが言えますが、それ以外でも、ベビーカーを利用している人、荷物をたくさん持つ人など、誰もが便利に利用することができます。
【センサー式蛇口】
センサー式蛇口は、握力の弱い人や手に障害がある人が手軽に利用することができます。もちろんそれだけではなく、特に公共のトイレでは蛇口を触ることなく手が洗えるため、誰でも快適に使うことができます。
【ノンステップバス】
ノンステップバスとは、床面を超低床構造にして乗降ステップが低いバスのことを言います。高齢者や障がい者、小さい子ども、重い荷物を持つ方など、全ての人にやさしい公共交通機関です。さらに補助スロープを使えば、車椅子での乗降も可能になります。
他にも、公共施設やマンションなどに多く設置されている「スロープ」や、元々は病院や福祉施設で医療用として設置されていた「ウォシュレット・シャワートイレ」、非常口やトイレ、車椅子マークなど、誰が見ても分かるようにデザインされている「標識(ピクトグラム)」などにもユニバーサルデザインが取り入れられていて、高齢者や障がい者だけではなく、全ての人が利用しやすく、便利になっているのです。
そして、2024年7月から発行された新紙幣。数字が今までよりも大きくなり見やすくなっているというのも、ユニバーサルデザインの一つといえるでしょう。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
ここまでの内容で、ユニバーサルデザインとバリアフリーの考え方はとても似ていることが分かると思います。
バリアフリーは、「高齢者や障がい者が社会生活を送るうえで、障壁となるものを取り除く」という考え方で、高齢者や障がい者など一部の人が対象になります。一方、ユニバーサルデザインは「全ての人が利用しやすい環境・製品などをデザインする」という考え方で、性別や年齢、国籍、障害の有無に関わらず、利用する全ての人を対象にしています。ユニバーサルデザインは “対象を高齢者や障がい者に限定していない”という点がバリアフリーとの違いになります。
バリアフリーの1歩先の考え方がユニバーサルデザインとも言われていて、人々がより暮らしやすい環境を目指すという方向性は同じなのです。
誰にとっても住みやすい『ユニバーサルデザイン住宅』
“誰にとっても使いやすい”ことを大きな目的としているユニバーサルデザインですが、では住宅にはどのような形で取り入れることができるのでしょうか?
【玄関】
ハンドルを軽く押すだけで扉を開けられるものや、引き戸にすることで車椅子の方や、大きな荷物を持っているときなど出入りが楽になります。広さがあれば玄関内にゆったりしたスペースを取り、ベンチを設置して靴が脱ぎ履きしやすいようにすることもできます。
そして、家族全員が便利に使えるように、ドアの隙間で指を挟まないような構造や、鍵の開閉もシンプルなものがいいでしょう。
【キッチン】
システムキッチンですと、それぞれの設備にユニバーサルデザインが取り入れられているものがあります。複数の製品を比較検討し、使いやすいものを選びましょう。
そして、周りに十分なスペースを取ることも大切です。子どもから大人まで安全に使うことができるように、ゆったりとした広さを確保しましょう。アイランドキッチンは、ご家族の様子を見ながら調理することができます。複数人がキッチンを出入りしても混雑せず、車椅子を使用している方でも安心です。
【浴室・洗面所・トイレ】
浴室は、家の中でも大きな事故が起こりやすい場所です。濡れても滑りにくい床材や、誰でも開閉しやすい引き戸タイプのドア、温度調節が簡単なシングル混合水栓、浴槽内での溺水事故を防ぐための手すりは備えておくと安心です。
そして、洗面所は手狭で動きづらくなりがちですが、車椅子が転回できるだけのスペースを確保することができれば、誰でも服の脱ぎ着がしやすくなります。
トイレも、手すりを設置したり、ゆったりとしたスペースを確保することは大切ですが、自動洗浄や自動開閉付きのトイレにすることや、便座のスイッチ類は誰が見ても簡単に操作できるものがいいですね。
他にも、内装のドアを全て引き戸にすることで、誰でも使いやすく、スペースを取ることもありません。ゆっくり自動で閉まるタイプを選べば、開けっ放しや誤って指を挟んでしまうような事故も防ぐことができます。
収納や照明も大切なポイントになります。キッチンの上部収納がスイッチで自動的に昇降するものであれば、モノの出し入れも楽ですね。照明で言えば、スイッチの操作が必要ない「人感センサー付きの照明」をおススメします。トイレや廊下、玄関では、消し忘れの心配もなく夜間の安全や防犯にも役立ちます。
バリアフリーだけではなく、家族全員が快適に過ごすことができる住宅が、ユニバーサルデザイン住宅なのです。
参考記事:『バリアフリーリフォーム』で高齢者にも安心・安全な住まいを
まとめ
ユニバーサルデザインの考え方を理解すると、普段の生活の中でも様々なところに広がっていることを実感することができます。普段何気なく使っている設備やモノ、印刷物やWEBなどのメディアに至るまで、あらゆる場所で拡大していて、とても便利になったと感じます。
地域においては、住環境整備は新築のみならず、空き家や空き室等の既存資源を活用しながら改修や転用、用途変更等により、より良い空間を創出する必要性も高まっています。
ユニバーサルデザイン住宅は、一般的な住宅に比べてコストがかかってしまいますが、家族全員がライフステージの変化に左右されずに快適な暮らしを送ることができます。これから新居を建てられる予定や、建て替え・リフォームを検討している方は、ぜひ、ユニバーサルデザインを意識してみてください。今後の住環境がより良いものになるのではないでしょうか。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。