介護・福祉

日本特有の『寒い家』 高齢者に必要な住宅リフォームとは

高齢者向けの住宅リフォームというと、まず思いつくのは「バリアフリー化」ですね。バリアフリー化の主な内容としては「手すりの設置」や「段差の解消」などがあります。

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しかし、高齢者の住まいにとってバリアフリー化以外にも重要なリフォームがあります。

今回は、バリアフリー化以外で高齢者の住まいに必要なリフォームを解説していきます。特に、築年数が経過している古い住宅に住まわれている方は参考にしてください。

交通事故よりも多い“ヒートショック”

近年では「家の中の寒さ」が、健康を損なう要因の一つだと言われています。築年数が経過している古い住宅に住まわれている方、「暖房を付けても家の中が寒い」と感じていませんか? 特に高齢者は「寒い家」には気を付けなくてはいけません。それは、冬場になるとよく耳にする“ヒートショック”によるもので、高齢者は特に影響を受けやすいとされています。

ヒートショックとは、急激な気温の変化で血圧が上下し、心臓や血管など体にダメージを受けることを指します。短時間で血圧が激しく変動することで、心筋梗塞、脳内出血、大動脈解離などの原因になると言われています。

ヒートショックは、浴室で起こることが多いとされています。日本の住宅は、日当たりのよい南側にリビングなどを充てるため、浴室は家の北側に設けられることが多く、特に冬場は冷えてしまい、暖かいリビングとの温度差が激しくなります。

人は暖かい場所から寒い場所へ行くとき、体の熱が奪われないように血管が収縮し血圧が上昇します。そして、寒い廊下や脱衣所を通って浴室へ行き、入浴したことにより体が温まると一気に血管が広がり、今度は血圧が急低下してヒートショックを起こしてしまうのです。

特に高齢者は、加齢による血管の硬化が高血圧を招き、収縮も弱くなるので急激な温度差に耐えられず、若い方よりもヒートショックを起こしやすくなります。高血圧の方はもちろん、糖尿病や高脂血症などによる動脈硬化傾向がある方、肥満や睡眠時無呼吸症候群、不整脈の方は特に注意が必要だと言われています。

厚生労働省が発表している人口動態統計「家庭における主な不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(特定階級)別死亡数及び百分率(2022年)」によると、浴槽内での溺死及び溺水数は約6,000人。そのうち約9割が65歳以上の高齢者という結果でした。高齢者は特に注意が必要なことが分かりますね。

しかも、高齢者の不慮の溺死・溺水は「交通事故死亡者」数よりも多くなっています。同じ2022年の交通事故により亡くなられた人数は2,610人だったので、2倍以上多いことが分かります。特に冬場は、夏場よりも浴室での事故数が増えると言われていますので注意が必要です。

代表的なヒートショック対策リフォーム

こちらも北側に設けられることが多いトイレ。浴室と同じく、トイレでもヒートショックは起こりやすいと言われています。冬場のトイレも寒いですよね。暖房便座ではない場合、冷たい便器に座り、排便するときにいきむので血圧が急上昇しやすい場所です。

では、浴室やトイレのヒートショック対策にはどのようなリフォームが効果的なのでしょうか? 代表的な対策リフォームを紹介します。

しかし、いざリフォームとなると費用がかかります。取り急ぎ、日常気を付けられることとしては、下記の対策をおススメします。

「寒い家」は危ない! 室内の温度変化をなくすリフォーム

冬場は、室内にいても外よりも寒いということはありませんか。浴室・トイレ以外でのヒートショックを想定した備えも重要です。「寒い家」はヒートショックの可能性を高めますので、家全体を暖めるリフォームが効果的です。

なぜ暖房を入れているのに部屋の中が暖まらず寒い、という現象が起きるのでしょうか。その原因の一つが、“窓”です。

室内の暖かい空気の大半は“窓から逃げる”と言われています。古い住宅では、薄い単板ガラスで、窓枠は熱を伝えやすいアルミサッシが使われていることが多く、暖房で暖めた室内の空気は、窓辺で一気に冷やされてしまい一向に部屋の中が暖まらないのです。

さらに、単板ガラスを使っていると外との気温差で結露が発生し、カビが発生しやすくなってしまいます。

二つ目の原因として、隙間風が挙げられます。

近年建てられた建物は、高気密化によって隙間風が入らないような仕組みになっていますが、古い住宅では、小さな隙間から冷気が入り込み、暖房を使っても室内が暖まりません。経年劣化が原因で建物がゆがんだりすると、さらに冷気が入ってきてしまいます。部屋の中でも吐く息が白い、なんてこともありますね。

三つ目の原因として、断熱材です。

古い住宅は断熱材が使われていない、又は使われていても現在のものに比べると薄く、壁の中に隙間が生まれてしまいます。その隙間から床、壁、天井に冷気が入り込むため、家全体が暖まりにくくなってしまいます。

こういった「寒い家」では、経済的なリスクもあります。冬場はどんなに部屋を暖めても空気が外に逃げていってしまうので、エアコンなどの暖房器具が常にフル稼働ではないでしょうか。当然、電気代もそれに応じてかかっていきます。最近では電気代も値上がり傾向にありますし、今後さらに上がっていくことも考えられるでしょう。

古い住宅では健康面だけではなく、経済面にリスクもあるということを理解しないといけません。

古い住宅はなぜ寒いのか?

日本では、住宅の性能表示の一つとして「断熱等性能等級(以下『断熱等級』とする)」が設けられています。国土交通省が制定した「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」において設けられた基準で、この制度は、2000年に住宅性能表示制度とともに始まりました。

断熱等級は住宅性能表示制度の中で、建物の断熱性能と省エネ性能をランク付けするものです。数字が大きければ大きいほど熱の出入りが少なく、夏は外の暑さが、冬は寒さが家の中に伝わりにくくなります。つまり断熱性能が高く、エネルギー効率の良い住宅であることを示します。制度が始まった2000年では「等級4」が最高断熱基準とされていました。

この等級基準は、大幅な改正がないまま20年以上も経過しており、その反面、住宅の性能は進化し続けました。近年では、等級4の性能を上回る住宅も増えてきていますが、基準は古いままなので、20年前に建てられた住宅も、近年に建てられた高性能な住宅も、同じ「等級4」としてしか評価されないという現状がありました。

この現状を解消するために、2022年4月に「等級5」が新たに新設され、最高等級が引き上げられたことで高性能な住宅をきちんと評価できるようになったのです。さらに、同年10月に「等級6」と「等級7」が新設されました。

2022年以前の最高断熱基準である「等級4」は、先進国の中では最低レベルと言われていて、その基準は守らなければならない「義務」ではなく、努力目標のような位置付けでした。そういったことから、日本の住宅の約9割が20年前の断熱基準すら満たしておらず、「寒い家」が多いのです。日本の断熱基準が20年以上ほぼ変わることはなく、国が定める住宅の省エネルギー基準が「時代遅れ」になっていたことも、「寒い家」が増えた理由だと考えられます。

これからは「暖かい家」が増える!?

建築物省エネ法の改正により、2025年4月からは原則すべての新築住宅・非住宅に「省エネ基準適合」が義務付けられることになりました。建築確認手続きの中で省エネ基準への適合性審査が行われるため、基準を満たしていない場合は建てることができなくなります。

【省エネ基準適合義務化】/国土交通省

ここでいう省エネ基準は「次世代省エネ基準」のことを指し、原則として断熱性能「等級4」以上の性能であることを義務付けるものになります。

さらに、公的な「住宅の省エネ化支援」が強化されていて、家を建てる時や、断熱リフォームで窓の取り替え時にも、断熱や省エネに関わる条件を満たすことで、補助金の申請が行えます。2023年から始まったこの制度は、2024年度も引き続き受付が行われていますので、うまく活用していきたいですね。

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まとめ

長年生活している住まいでは、「家の寒さ」を当たり前と感じている方がほとんどでしょう。冬が来るたびに暖房器具だけで寒さをしのぐ環境では、いつか体に限界が来てしまいます。

「寒いと動くのが億劫になる」、「気分的に落ち込みやすくなる」など、寒さは身体面だけでなくメンタル面にも影響すると言われています。

大がかりな断熱リフォームとなると費用面が気になるところ。内窓(小さい窓)であれば、5万円~10万円程度でリフォームできる場合もあります。まずは、洗面所やトイレの窓だけでもリフォームをしてみるというのはいかがでしょう。

「暖かさ」というのは、体にも心にもとても重要なものなのです。断熱改修を実施した住まいでは、住人がより活動的になるということも分かっているそうです。高齢者にとって暖かい家にリフォームすることは、健康に明るく過ごすために必要なリフォームと言えるのではないでしょうか。

須崎 健史
執筆・監修 須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役) 宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。