空き家

『空き家の利活用』は、地域人口の減少や活力低下の歯止めとなるか

今、社会問題の一つとされている“空き家問題”。“空き家”になってしまう主な原因は、相続発生に伴う所有者の変更や、自宅を所有する高齢者が老人ホーム等の高齢者住宅に転居することが多いとされています。

今後、団塊の世代を含めた高齢者は急激に増えていき、空き家も今以上に増えていくことが予想されます。特に駅から遠く、利便性の低い地域等では、首都回帰の流れやインフラ弱の理由からも想像以上のスピードで空き家が増加していくことでしょう。

空き家は、「いずれ家族や親族が使うかもしれない」、「解体するにも費用がかかる」等、放置されてしまうことが多く、“使用目的のない空き家”は増え続けています。

参考記事:管理されない空き家の未来 ~「特定空き家」・「管理不全空き家」とは~

今回は、そのような“使用目的のない空き家”に使用目的を持たせる“空き家の利活用”の実態や、空き家を利活用しやすくするための国の施策を解説していきます。

空き家にしない行動…現実は難しい!?

“空き家”で困らないためには、自宅や実家の将来について家族と早くから話し会い、誰も住まない状態に(空き家)になった場合、どのように対処するのかを決めておくことが大切です。

しかし、現状はなかなかうまくいかないようです。弊社へご相談に来られる方々の内容からも実感しています。

そこには、相続問題や、親の今後についてを話し合うことがタブーとされるような風潮も関係しているのではないでしょうか。子どもから死後の事やお金の話を切り出すのは勇気がいること、ましては親からも話しにくい内容であることは間違いありません。

相続不動産を専門としている私でも、“血の繫がりがある親・親族”とは、話を切り出すのに気を遣います。そのため、早い段階から第三者(相続や不動産の専門家)に頼ることをオススメします。

空き家の利活用

弊社は住まいの専門家として“空き家問題”を大きな社会問題として捉え、不動産の知識を得ることはもちろん、様々な形で活用している施設などを実際に見学させていただき、所有者さんや管理者さん、施設を利用している方々から話を聞いたりしています。

今回は、弊社の活動拠点である東京都国分寺市での「空き家活用の成功事例」をご紹介します。

【なみき牧場】

誰でも気軽に立ち寄れる“おうち”として、開かれている施設です。赤ちゃんからお年寄りまで、誰でも好きなことをして過ごせる場所であり、一人でも、お友達と一緒でも大歓迎とのことです。

空き家になった自宅を開放して、地域のために何かできないのかと始めた施設です。以前に、牧場を経営していたことから地域住民に馴染みのある名前にしたい、そのような想いから「なみき牧場」としてスタートをされたそうです。

こちらの施設は2025年1月にオープンしたため、私もオープニングイベントに参加させていただきました。

なみき牧場は、「なみきのね」という団体が運営をされていますが、オープニングイベントではたくさんのボランティアの方が手伝っており、とても賑やかで活気に溢れていました。

なかでも強く印象に残っているのが、ボランティアとして参加していた男子高校生です。

参加理由を聞いたところ「色々な方との交流やコミュニケーションを取ることが、今後の自分の為になると思ったから」との事。こういった考えを持つ若者が増えることは、地域にとって貴重な人材となり地域活性化に欠かせないことでもあるように思います。子を持つ親として大変感心を持ち、尊敬の念を抱いた出来事でもありました。

参考記事:〜なみき牧場オープニングイベントへ参加〜空き家活用in国分寺市

平日はオープンスペースとして開放していて、開いていれば気軽に利用できます。そして、火・金曜は「BOUKENたんまの日」として、お茶やケーキ、17時からは夕ご飯(有料)の提供もされています。

さらに、レンタルスペースとして借りることもできます。8畳の和室が2つあり、繋げて使うこともできるそうです。【予約はこちらから】

興味のある方はぜひ利用してみて下さい。

【なみき牧場】
住所:〒185-0005 国分寺市並木町2-11-5
運営団体:なみきのね

「空家等対策特別措置法の改正」

こういった“空き家”の利活用を増やしていくために、令和5年12月13日、空き家の増加が続く状況を踏まえて、「空家等対策特別措置法の改正」が行われました。改正の趣旨は、空き家の状態が極めて悪くなる前に、悪化の防止を図るための仕組みを創設するというものです。

新設された一つに、空き家活用の重点的実施を目的とした「空家等活用促進区域」があります。

【空家等活用促進区域】とは…
市町村が、重点的に空家等の活用を図るエリアを【促進区域】として定め、当該区域内で、「経済的社会的活動の促進のために誘導すべき用途」(誘導用途)としての活用を、空家等の所有者に働きかけること、市町村が都道府県と連携して建築基準法等の規制の合理化を図り、空家等の用途変更や建替え等を促進すること。

市町村が定めた促進区域内であれば、空き家を利活用するために、再建築不可の建物を建て替えることや、用途変更(※)も促進されるようになり、活用の幅も増えるのではないでしょうか。

※用途変更…住居を飲食店や旅館に変更する等、既存の建物の用途を変更する手続きのこと。

促進区域は、“空き家の利活用”を行うことが最終的な目的ではなく、利活用を通じて、地域における「経済的社会的活動」を促進することが目的となります。

「経済的社会的活動」とは、人々の活動を幅広く指すものであり、財貨・サービスに関係する活動や、人々の集団的・組織的な営みに関係する活動が該当します。例えば、地域の商業活動はもとより、福祉活動、地域コミュニティを維持する活動なども幅広く含まれます。

【空家等活用促進区域の設定に係るガイドライン】/国土交通省

まとめ

上記の「なみき牧場」のような施設を利用することで、空き家の利活用は、新しい街づくりと共にある、と痛切に感じます。

“空き家”が増えるということは、その地域に住む人が減っていくということです。その地域の活力が低下するだけでなく、道路や水道、電気といったインフラを維持することや、スーパーや銀行、クリニックなど、生活に欠かせない施設の撤退も進んでしまい、地域の魅力を低下させてしまう原因となってしまいます。

一人暮らしの高齢者や、両親が共働きの子ども達。その他たくさんの人たちが、気軽に利用できる場所が地域の中にいくつもできることで、住みやすい街になり、人も集まることで“街”は活性化するのではないでしょうか。

自宅が空き家になることで、地域の活力低下のひとつになってしまうのはとても残念なことです。長く住まわれてきた地域を守るためにも、相続した実家や、親・親族が施設等に入った後の空き家となる住宅など、空き家の利活用・処分でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

参考記事:負担となる実家の相続対策 ~空き家の売却~

参考記事:自宅が空き家に! 『賃貸』という選択肢

須崎 健史
執筆・監修 須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役) 宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。