高齢化する大家さんと賃貸住宅 ~空室だらけの賃貸住宅が空き家に繋がる~
少子高齢化が進む中、賃貸住宅を所有する“大家さん”の高齢化が進んでいます。大家さんが高齢化しているということは、建物自体の高齢化が進んでいるともいえるでしょう。建物は築年数が経過しても、維持・管理に必要なメンテナンスを行っていれば問題はありません。しかし、必要なメンテナンスやリフォームを行なっていない、または消費者のニーズに合わせたリノベーションが行なわれていない建物では、空室が増え、新しい入居者も決まらずに最終的には空き家となってしまうケースが多いといわれています。
2023年における日本の総住宅数は6504万7千戸となっており、そのうち空き家は900万2千戸、空き家の割合(空き家率)でいうと13.8%になり2018年(848万9千戸・13.6%)から0.2%上昇しています。さらにその中の「賃貸用の空き家」も、2018年(4327戸)から2023年(4436戸)と上昇していることが分かります。
大家さんや賃貸住宅の高齢化が進んでいる昨今、空き家も増加し続けています。ここに関連性はあるのでしょうか?
今回は、大家さんや賃貸住宅の高齢化と空き家の関連性、解決策を考えてみたいと思います。大家さんの行動が、空き家を減らす“きっかけ”となるかもしれません。高齢で賃貸住宅を所有している大家さんは、ぜひご自分の経営を見直すきっかけにしてみて下さい。
大家さんは高齢者が多い?
賃貸住宅の大家さんというと、高齢の方が多い気がしませんか? 最近は、投資を目的とした若い層の大家さんも増えてきましたが、まだまだ高齢の大家さんが多いかと思われます。それには、下記のような相続に関係する理由が考えられます。
現金や預貯金のまま相続が発生すると、その価値そのものが相続税評価額となりますが、アパート等の賃貸住宅を建てることにより、現金という財産が賃貸住宅という不動産に組み換わるため、財産の評価を下げる効果があり有効な相続税対策といわれています。
こういった「相続税対策として建築された賃貸住宅」が多いことも、高齢の大家さんが多い原因の一つだと考えられます。
大家さんが高齢だと空き家に繋がる?
なぜ賃貸住宅の空き家が増加しているのでしょうか。もちろん賃貸住宅に限らず、少子高齢化等により全国的に空き家は増加していますが、賃貸住宅特有の問題もあるようです。
前述した相続税対策として建築するパターンでは、これから大家、賃貸経営者となることを理解しないまま相続税対策ばかりを先行して進めてしまい、入居者の需要が見込めないエリアに建築してしまうケースです。そういった場合、お金をかけてきれいな新築物件を建てたものの、空室が続いてしまうことは予想できます。
また、バブル期に建築された“賃貸住宅の老朽化”も原因の一つだと考えられるでしょう。賃貸住宅はバブル期(1985~1990年)を中心に多く建築された経緯があります。また、1991年には生産緑地法が改正されたこともあり、保有する農地の取り扱いを巡って賃貸住宅を建築するケースも多かったようです。こういった老朽化した建物は、きちんとしたメンテナンス・リフォームや、時代に沿ったリノベーションを行っていない場合、空室期間が長期にわたってしまうケースが多くあるでしょう。
こういった空室の多い賃貸住宅には、“賃貸経営者”として向き合っていない、向き合うことが体力的にも精神的にも難しい高齢な大家さんが多い傾向があります。
空き家への一途をたどる“古い考えの高齢大家さん”
先日、賃貸住宅の所有者であったご主人(80代)が亡くなられ、奥さんと娘さんで今後の賃貸経営についてどうしたらいいか、というご相談がありました。実は、以前よりご主人とは面識があり、賃貸経営についてアドバイスをさせていただいていた経緯があります。
生前のご主人から、「年をとってきて、アパートの管理や入居者さんの希望にも対応するのがきつくなってきた。建物も古いし相続ではなく手放すことを考えている」というお話しがあり、亡くなられたご主人の意向を含めた上で、奥さん、娘さんとお話しをすることができました。
このように、ご自分の年齢や先々のこと、物件に住む入居者さんのことを考える大家さんであればいいのですが、中には、「家を買えない人たちに貸している」、「面倒な業務は管理会社(不動産会社)に丸投げ」など、ご自身の賃貸経営に関わる人たちよりも上から目線で、いまだに古い考えをお持ちの大家さんがいらっしゃるのも事実です。
こういった大家さんだと、管理会社(不動産会社)からの修繕提案を聞き入れることもなく、どんどん入居者さん達が住みにくい環境になっていることにも気が付いていないかもしれません。これでは間違いなく建物は老朽化し、住みにくいと感じた入居者さん達は退去してしまいます。
さらに、管理会社(不動産会社)との関係性も築けないままだと、新たな入居者さんを紹介してもらえなくなり、“空き家”(空室)への一途をたどることになってしまうかもしれません。
古くても満室経営するために大切なこと
建物が古くても、常に満室状態を維持されている大家さんもいらっしゃいます。そういった大家さんは、年数ごとに必要なメンテナンスを行い、清掃が行き届き、古いながらも常に綺麗にしている印象があります。管理会社(不動産会社)との関係性も良好なため、空室が出ても早めに次の入居者が決まることが多いでしょう。
大家業は、思ったより面倒な事もたくさんあります。家賃の滞納や、建物全体・各部屋・共用部など不具合が起きるのは当たり前です。まして、築年数が経てばなおさらです。きちんと対応できなければ、入居者さんにも迷惑がかかってしまいます。
トラブルが起きた時は、一人で対応することは難しいかもしれません。そういった時に頼れる管理会社(不動産会社)がいること、ビジネスパートナーとして良好な関係を築いているということが、満室経営の大家さんには必要な条件のひとつだと思います。
まとめ
元気なうちに建てたアパートも古くなり、築年数が40年を越え、大家さんも70代、80代なんてこともざらにあります。昔ながらの賃貸経営のままだと、現代では通用しないことも多いでしょう。
大家業はビジネスです。
今後、さらに人口減少も加速し、地方を含め都市部でも大家業は益々厳しくなる環境であることは間違えないといえます。大家さん自身の賃貸経営を安定させ、これ以上空き家(空室)を増やさないためにも“プロの大家業”であることが必須です。
高齢な大家さんは、まだまだ元気だからといって相続や売却など、先のことを見据えていないこともあるでしょう。所有する賃貸住宅に空室が多く、なかなか入居者が決まらない状況が続いているのであれば、これからの経営方針を見直してみることをおススメします。
そういった大家さんの行動が、空き家を減らす“きっかけ”になるかもしれません。私たちのような専門家を頼ることも選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。