『耐震基準』を知ることは人命を守る行動になる

地震大国といわれる日本。マグニチュード7.6(最大震度7)を観測した「能登半島地震」から1年以上経過したものの、日本各地で頻繁に地震は起きています。
「住宅」と「地震」は密接な関係にあります。地震から住まいを守る基本となるものに「建築基準法」という法律があり、「耐震基準」が決められています。
「建築基準法」は、建築物の安全性を確保し、国民の生命や健康、財産を守ることを目的とし、建物の敷地や構造、設備、用途に関する最低限の基準を定めた法律です。そして「耐震基準」は、建築基準法が定めた一定の強さの地震に耐えられる最低限クリアすべき基準のことを指します。
耐震基準は、過去に起きた大規模な震災からの教訓を経て、度々改正を重ねてきました。
今回は、耐震基準の区分として大きく分けられる「旧耐震基準」と「新耐震基準」について、さらに1995年に発生した「阪神・淡路大震災」の被害を元に改正された「2000年基準」についても解説していきます。
これから中古住宅を購入する予定がある方や、所有している建物の耐震性が不安な方など、ぜひ参考にしてください。
住宅を守る『耐震基準』とは

新しく住宅などの建物を建てるには、「建築確認申請」が必要となります。よって、皆さんの住まいを含め現在建っている建物は、建築基準法で定められた耐震基準をクリアした建物、ということになります。
しかし、これまでに法改正があり、建てられた(建築確認申請が出された)タイミングによって、異なる耐震基準の建物が混在しているという現状があります。
そして、築年数が経過している建物の場合、建築確認申請を受けた年月日が不明なことも多くあります。戸建て住宅やマンション等の中古物件は、建物が竣工した年を目安に耐震基準を推測しなければいけないこともあるのです。
また、弊社のコラムでも取り上げることの多い「空き家」に関しては、築年数が経過しているケースが多いため、耐震基準を確認することが重要です。必要であれば耐震改修工事を行うか、もしくは解体するという、所有者にとって解決しなければいけない大きな課題でしょう。
2025年4月1日には建築基準法が大きく改定され、建築業界は変革の年を迎えたといえます。
参考記事:【2025年 建築基準法・建築物省エネ法改正】将来を見据えた家づくり
2025年の建築基準法の見直しの契機の一つでもあるといわれている、2016年に発生した「熊本地震」。
「旧耐震基準」の木造建物の倒壊はもちろん、「新耐震基準」、しかも「2000年基準」に基づいて建てられた建物ですら倒壊してしまったという現実がありました。
震度7を2回も記録し、その後も強い地震が続いたため、「余震」という概念が見直された地震でもあります。「熊本地震」は、日本全国に建つ木造建物の耐震性を再評価するきっかけとなり、今回の建築基準法の見直しの契機になっているといわれています。
まずは、過去に基準とされていた「旧耐震基準」や「新耐震基準」そして「2000年基準」について解説していきたいと思います。
『旧耐震基準』
「旧耐震基準」とは、建築基準法が施行された1950年から1981年5月31日までに建築確認申請を行った建物に適用された耐震基準を指します。
当時は、10年に一度程度“中規模”な地震が発生することを想定し、「震度5程度の地震で大きな損傷を受けないこと」が基準となっていました。つまり、旧耐震基準では震度5強よりも大きい地震に対しての定めはなく、震度6や震度7の大規模地震に対しては不足といえる状態だったのです。
震度5程度の地震でも、倒壊しなかったものの損傷が残る可能性は大いにあり、住めない状態になることも考えられます。また、震度6や震度7の大規模な地震が発生すると、人命を奪ってしまうような倒壊が起こる可能性が十分に考えられます。
1981年(昭和56年)というと、2025年の現在から見ると44年前です。それ以前に建てられた建物は、昨今起きている大地震の規模には耐えられない構造だということになります。
『新耐震基準』
「新耐震基準」は1981年6月から施行され、「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程の大規模地震でも倒壊は免れる」という、震度6強~7程度の大規模地震で倒壊・崩壊しないことの検証を行うことが定められました。今回の2025年4月の改定前まで基準とされていた耐震基準です。
新耐震基準は1978年の「宮城県沖地震」を受けて改正が行われました。
「宮城県沖地震」は、マグニチュード7.4(震度5)を観測し、特に仙台市で大きな被害がありました。建物の全半壊が4,385戸、一部損壊が86,010戸という多大な被害が生じ、家屋倒壊被害が甚大でした。当時の人口50万人以上の都市が初めて経験した「都市型地震の典型」といわれています。
この地震から教訓を得て、より厳しい耐震基準に引き上げが行われ新耐震基準となりました。
『2000年基準』
新耐震基準で建築された多くの木造住宅が、1995年の「阪神淡路大震災」によって倒壊・半壊したことをきっかけに、新耐震基準の弱点を強化し、木造住宅の強化をメインとして改正された基準が「2000年基準(新・新耐震基準)」です。
建物全体の耐震性を向上させることを目的に「地盤に応じた基礎設計」「基礎と柱の接合部に金具の取り付け」「耐力壁のバランスと配置」が強化されています。
2000年基準は木造住宅に適用される内容なので、鉄骨造・鉄筋コンクリート造などの建物には適応されません。
中古住宅を購入する・所有している場合の注意点
現在の中古住宅の中には、旧耐震の時代に建てられた建物、新耐震基準の審査を受けていない、または満たしていない建物も少なからず存在し、流通しています。そういった物件の購入を検討する際、または現在の住まいがそのような場合は、どのようなことに気を付けたらよいのでしょうか。

新耐震基準は1981年6月1日に施行されましたが、その日以降に完成した建物が新耐震基準なのか、というとそうではありません。
建物の建築をするには、検査機関による「建築確認申請」を受けなくてはいけません。そのため、どの耐震基準に適合して建築されたかを確認するには、建築確認申請がいつ行われたか、「建築確認証」や「検査済証」にある建築確認申請日を確認することが必要です。
耐震基準を満たしているかを確認することも重要ですが、それだけではなく、定期的なメンテナンスは十分に行われているか、実際にどんな施工がされたのか、地盤は安全かなど、確認することも必要だといえます。
現在の住まいであれば、どのようなメンテナンスを行ってきたか整理しておきましょう。旧耐震基準の建物であれば、耐震診断を行い、耐震補強工事を検討することも資産価値を高める上で有効でしょう。
また中古住宅を購入する際には、旧耐震基準(1981年)以前の建物の場合は、「耐震基準適合証明書(※)」を取得できなければ住宅ローン減税が受けられない場合もありますので注意が必要です。
※ 耐震基準適合証明書…建物が耐震基準を満たしていることを証明する書類
新しい基準で建てられた建物は安全なのか?
旧耐震基準と新耐震基準で、施工の規定が大きく変わったことは事実です。その後も、木造住宅に対して2000年基準という新たな改正がありましたが、新しい基準で建てられている、耐震補強工事を行っているからといって絶対に壊れないということではありません。
建築基準法の冒頭でも述べられていますが、耐震基準は「最低限守られるべき決まり」なのです。
注意すべき点は、生涯で遭遇するかどうかという大規模な地震に対して「建物が壊れないこと」を目標としているわけではないということです。
耐震基準とは、「建物は壊れても、人の命は守られる」設計であり、人命最優先が基準になります。よって、「大規模な地震が起きた時に建物が壊れる前に逃げる時間を確保できる基準」、「建物ではなく人命を守るための基準」という考え方が正しいといえるのではないでしょうか。
大地震が30年以内に発生する確率は70%
内閣府の災害情報ページでは、発生の切迫性が指摘されている「首都直下地震」や「南海トラフ地震」が、30年以内に発生する確率は70%程度と高い数字で予想されています。
現在の住まいが旧耐震基準の建物の場合は、建て替えの義務があるわけではありませんが、大地震が起きてしまった時に倒壊してしまう可能性が高いことから、住み続けるのであれば、まずは耐震診断を受け、必要であれば耐震補強工事を行うことが理想です。
国土交通省でも、「令和12年までに耐震性が不十分な住宅、令和7年までに耐震性が不十分な耐震診断義務付け対象建築物をおおむね解消する」ことを目標として掲げ、所有者へ耐震化の支援を行っています。
「住宅・建築物の耐震化について」/国土交通省
後々相続等で売却することになっても、対策されている建物であれば買主も安心して購入することができ、スムーズに売却が進む可能性も高まります。
もし、現在の住まいで大きな地震が起き、特に木造住宅に関してはそのまま住み続けていいのか判断できない場合には、国土交通省から出されている「~木造住宅の地震後の安全チェック~この家、住み続けていいのかな?」というパンフレットを参考にするといいかもしれません。

また、地震が起こった時にどのように行動するか、避難所はどこなのか等あらかじめ調べておき、家族や親族と共有しておくことがとても重要です。
まとめ
2025年、弊社の活動拠点である東京都立川市では「防災」をテーマに掲げています。建物を所有する皆さんが、住まいの「防災」について行動を起こすことで、大地震が起きた時、被害が最小限に抑えられる可能性も高まります。
弊社でも、住まいの「防災」に関してお力になれることがあればと、日々情報収集等行っております。住まいに関して(売却・購入・リフォーム等)ご不安なことがあればお気軽にご相談下さい。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。