老後はマンションで過ごす ~中古マンションを選ぶ時の注意点~

高齢者といわれる年代になると、まだまだ元気ではあるものの、老後の住まいについて考え始める時期になるのではないでしょうか。先の人生を見据えて、50~60代で郊外の戸建てから便利な駅前のコンパクトなマンションへ住み替える方も増えています。
高齢者向けのマンションであれば、部屋もバリアフリーで、医療制度が整っていたり様々な介護サービスが付いていることが多いため、老後も安心して過ごせることでしょう。
しかし、エリアや予算などの理由から、高齢者向けではない「中古マンション」を検討することもあるかもしれません。中古マンション(築年数が経過している)を購入する場合は、様々な面で注意が必要です。
老後の住み替えで失敗しないためには、「安全、安心、快適、便利」な住み替え先であること、さらに、ご自分の家族構成や状況を考え資産価値を考慮することが重要です。
今回は、老後の住み替えで中古マンションの購入を検討している方や、すでにマンション住まいで老後も住み続けることを希望している方へ、今後、重要になり得る“マンションでの住生活の課題”や、“押さえておくべきポイント”など、マンション業界の動向を踏まえてお伝えします。
建物は必ず老朽化する
国土交通省の統計によると、2013年末の時点で築年数40年以上のマンションは全国で約41.5万戸あるとされていますが、その10年後である2023年末には136.9万戸に増えています。今後の予測では、10年後(2033年末)には274.3万戸、20年後(2043年末)には463.8万戸に増えるとされています。
『築40年以上のマンションストック数の推移』/国土交通省
昨今、築年数が経過したマンションにおいて、資金不足などの理由から十分な修繕を行うことが出来ない事例が増えているようです。「老朽化マンション問題」としてメディア等に取り上げられている機会も目にするようになりました。
「老朽化マンション」とは、どの程度の築年数が経過した建物を指すのか…、明確な定義はないようですが、建物や設備が経年劣化して外観なども見た目で劣化がわかる、古びたマンションの総称をいうことが多いようです。

どのようなマンションも、築年数の経過とともに老朽化は進むため、定期的な修繕を計画し進めていくことが必要です。そして、分譲マンションのような区分所有者である集合住宅では、個人が所有する戸建て住宅等とは違い、各所有者たちが協力、資金を出し合うことで建物を維持していく必要があります。
そのため分譲マンションでは、「区分所有法第3条(※)」に基づいて、建物や敷地・附属施設の管理を行うための団体をつくり、管理者を置くことができます。この団体は「管理組合」と呼ばれ、マンションを購入した区分所有者全員が加入することになります。
※ 区分所有法第3条【区分所有者の団体】
区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
分譲マンションの管理組合
分譲マンションの管理組合は、建物の管理会社と共に、建物を維持・管理することが目的とされた組織です。
区分所有者(住民)として管理組合への関わり方は、「理事会の役員」または「一区分所有者」として関わることになるでしょう(賃貸契約の賃借人や区分所有者の家族・同居人は管理組合に加入する権利がありません)。
理事会には「理事長」「理事」「監事」等の役職があり、理事会の役員として関わる場合、マンションの維持・管理についての方針を話し合い、マンションの資産価値の向上に努めなければなりません。
例えば、マンションの敷地・共用部分の清掃・管理、長期修繕計画の作成、修繕積立金・管理費の運用、日常生活でのマナーやルールの周知、総会の運営等は管理組合が行うことになります。

一区分所有者として関わる場合、日常的な業務は特にありません。理事会の意思決定に賛否を表して、決定した方針に従いながら生活していくことになります。
理事会は1~2年が任期の輪番制のことが多く、区分所有者が順番に担当するのが一般的のようです。法的な強制力はないので拒否することは可能ですが、区分所有者の一員として、できる限りマンション運営に参加・協力していくことも必要でしょう。
「管理組合」がしっかり機能しているマンションは、築年数が経過していても外観などもきれいに維持されているおり、「老朽化マンション」と一概には言えないケースもあります。古くても大規模修繕等が定期的に行われているマンションは、「管理組合」が円滑に機能している、ともいえます。
老朽化していくマンションの現実
老朽化が進むと、建物の防水(屋上)と外壁の剥落や、給排水管の劣化からの漏水等で安全性や生活に支障が出てくる可能性があります。そして、1981年以前に建てられたマンション(旧耐震マンション)は、現行の法律が求める耐震性が確保されていない可能性があります。
国土交通省からは「住宅・建築物の耐震化について」という形で、古い耐震基準で建てられた建物については、まず耐震診断を実施し、耐震性が不十分な場合は耐震改修もしくは建替えを検討するよう推奨しています。
老朽化や耐震性への不安といった課題を解決するために「管理組合」が機能していることが必要なのですが、見た目からも老朽化してしまっているマンションでは、区分所有者は居住せずに第三者へ貸し出している(賃貸や民泊)ことや、空室(空き家)となっていることも多く、
所有者として入居しているのは、新築当時に購入した高齢者世帯のみ、というマンションも増えているといいます。
建物も住民も“高齢化”しているという理由から、管理組合も機能していない現実があるようです。
そして、建物が古くなればもちろん改修や修繕も増え、管理費・修繕積立金は上昇していきます。しかし、管理費・修繕積立金を値上げするということは、とても難しいと聞きます。
各所有者の意識の問題ともいえますが、自身が住んでいない(賃貸等として貸し出している)、または、支払いに苦しい高齢者などが多い建物は、特に難しい問題であることは間違いないでしょう。
こういったことから、資金不足を理由に必ず必要である「大規模修繕工事」が実施できない状態が続き「老朽化マンション」と化してしまうのです。
マンション建て替えの現実
老朽化したマンションの解決策として「建て替え」があります。しかし、分譲マンションが建て替えられた数は少ないといわれています。実際はどのくらいなのでしょうか。
国土交通省の「マンション建て替え等の実施状況」によると、建て替えられたマンションの実績は2024年4月1日時点の累計で297件、約2.4万戸です。
前述した「築40年以上のマンションストック数の推移」から考えても、築40年以上となるマンションが2023年末には136.9万戸まで増え、今後もさらに増える予測のある中で建て替えられたマンションが上記の戸数というのは、とても少ないのではないでしょうか。
マンションの建て替えが進まない大きな理由は、「区分所有者の費用負担が重い」ことだといわれています。ただでさえ、管理費・修繕積立金の値上げすら難しいマンションであれば、なおさら建て替えが難しいことがわかります。
ですが、実際に建て替えられたマンションには共通点があるといえます。それは、「駅前のなど立地がよいマンション」や「建て替えることで戸数(高層化等)を増やし、販売することで利益を得ることができるマンション」です。
しかし、そのような条件をクリアできるマンションはどのくらいあるのでしょうか。実際に建て替えに値するマンションというのは、建て替えられた戸数を見るととても少ない、ということになるのでしょう。
購入・住み続けるメリットを考える
老後の住まいについて、中古マンションの購入を検討している場合には、できるだけ長く住み続けられる物件を見極めることが大切です。
中古マンションは購入費用を安くできる分、間取りや内装、設備などのリフォームやリノベーションに予算を回すことで、自分の理想の住まいを手に入れやすいといえます。さらに、駅近など生活しやすい環境であれば、高齢になっても安心して暮らすことができるなどメリットもあります。
そして、ご自分の家族や状況を踏まえ資産価値の面もしっかり考慮しましょう。相続対策も考え、多少でも売却しやすい立地や築年数を考えることも重要です。
また、現在マンションを所有し今後も住み続ける方は、マンションの修繕計画や管理費・修繕積立金の使用用途などを知ることも重要です。ぜひ、この機会に「管理組合」へ積極的に参加する事や、現状を把握してみることをオススメします。

尚、以下の点について該当する中古マンションは、注視していく必要がありそうです。
各方面において、大手バス会社から人手不足による路線廃止や減便を発表しています。最寄り駅までバスを使わないと行けないような立地にあるマンションの場合は、築年数が経過すればするほど売却が難しくなる可能性が高まるでしょう。
マンション買取を専門としている業者からは、こういったマンションの購入を躊躇するケースが増えていると聞きます。
現状の住まいがこのような条件に当てはまる場合は、ご自分の家族や状況を踏まえ、早めに売却(住み替え)することも一つの得策になり得るかもしれません。
まとめ
高齢になってからの住み替えに「中古マンションの購入」という選択肢を選ぶのであれば、販売価格だけではなく「環境」・「地域性、将来性」・「利便性」を相対的に判断すること。そして、「中古マンションの売却」をお考えの方は、「高値で売れます!」の煽りには注意が必要です。
2025年は法律の改定や物価上昇など、不動産の売買仲介・住宅のプロにおいても、不動産業界内での今後の見通しや判断が難しい年であることは間違いありません。
メリット・デメリットを含め、様々な視点、ご自分の家族や状況から見極めることが大切です。そして、焦らず(煽られず)、慌てず、慎重に進めていきましょう。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。