ちょっと待って! リフォーム前提の中古住宅購入 ~新しい法規制と建設業界の今~

人生の中で年齢問わず“住み替え”は、大きなターニングポイントだといえるでしょう。特にシニア世代にとっては、新しい住まいが快適・安全であることはもちろん、生活の質を向上させるための重要な要素になります。
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住み替えの一つの方法として、“リフォーム・リノベーションを前提とした中古住宅の購入”という手段を選ぶ方が多くいらっしゃいます。
今回は、住み替えで“中古住宅(戸建て)を購入すること”を考えている方、“自宅(戸建て)のリフォーム・リノベーション”を考えている方へ、2025年4月の建築基準法・建築物省エネ法改正による影響や、建設業界の物価高騰の影響をまとめて解説したいと思います。
消費者にとって様々な影響が考えられますので、ぜひ参考にして下さい。
『2025年 建築基準法・建築物省エネ法改正』
2025年4月から、建築基準法・建築物省エネ法が改正され全面施行されます。この改正に伴い、これから建てられるすべての新築建築物に“省エネ基準適合”が義務化されるなど、建築確認手続きや申請図書作成に関する変更が始まります。
今回の改正で大きく変更するポイントに、「4号特例の縮小」と「省エネ基準の適合義務化」があり、新築建物だけではなく、既存建物の増改築や大規模リフォーム・リノベーションにも大きく影響するといわれています。
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法改正により、木造平屋建て(延べ面積200㎡超)や木造二階建てなどの「新2号建築物」(改正前は4号建築物)である建物の増築や大規模なリフォーム・リノベーションでは、今までは不必要であった“建築確認申請”が必要になります。
システムキッチンやユニットバスの入れ替えやクロスの張り替え等、小規模なリフォームといわれるものは、これまで通り建築確認申請は不要です。しかし、リフォーム後は建築基準法の規定に適合している必要があります。
建物の耐震性や断熱性に関する省エネ基準も一層厳格化されるため、確認申請の手続きも複雑になり、時間はもちろん、コストも上がるといわれています。
今後、リフォーム・リノベーションを前提とした中古住宅の購入を考えている方だけではなく、自宅の大規模修繕や増改築等の予定がある方は注意が必要です。
建設業界の物価高騰の影響
現在は、食品を始めとした様々な製品の値上げや、電気代・ガス代など光熱費の高騰で、生活にかかるコスト上昇は収まる気配はありません。
同じように建設業界でも、建設関連の物価は急上昇しています。戸建住宅の価格が2020年以降に急上昇している、という情報は皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。
実際に建設資材はどのくらい上がっているのでしょうか。東京の建設資材物価指数を見てみましょう。
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建設資材物価指数とは、建設工事で使用される資材の価格動向を指数化したものです。燃料(電気代・ガス代等)やサービス(機械賃貸・機械修理・土木建築サービス等)の費用を除いて指数を算出しているため、建設工事に使用する資材の物価変動をより正確に把握することができます。
上記のグラフから分かるように、コロナ禍以前と以後では状況が一変しています。2021年以降、急激に価格が上昇し、2024年4月からは高止まりが続いているという状況になっています。
そして、建設資材だけではなく「建築費」も同じ時期から上昇しています。

建築費とは、建物を建てるために必要となる費用の総額で、材料費や人件費、水道光熱費など様々な費用が含まれています。
こういった建設業界での物価高騰は、新型コロナウイルスの影響が大きいといわれていますが、その他にもロシアとウクライナの紛争による“ウクライナ問題”での“輸送コストの上昇”や、“円安”の影響もあるといわれています。エネルギー価格の高騰は出口も見えない状況であり、しばらく続いていくのではないでしょうか。
建設業界の『働き方改革』スタート

昨年に、テレビや新聞などで多く特集されていた「2024年問題」、ご存じの方も多いでしょう。「働き方改革関連法※」に基づく時間外労働の規制強化が適用されることで発生する問題の総称ですが、報道されていた2024年問題には、「物流の」という言葉が付属されていたケースが多いため、“物流業界に関連する問題”なのだと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、この2024年問題は物流業界だけに影響があったのではなく、建設業界や医療業界など、様々な業界に関わる非常に深刻な問題とされており、建設業界では2025年に入った現在でも、終わりの見えない問題とされています。
建設業界では、2019年4月に施行された「働き方改革関連法※」について、5年間の猶予措置がとられていました。しかし、ほとんどの企業で対応が追い付かないまま5年後である(2024年3月末)期限を迎えてしまった、という現状があります。
※ 働き方改革関連法・・・「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」のこと。働き方改革を進めるうえで必要な法改正を行うための法律。
主に以下の2つの法改正がポイントとなっています。
● 割増賃金引上げ
中小企業における60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率(いわゆる残業代)が、25%から50%へと引き上げられるというものです。
法定時間外労働の割増賃金率は、大企業では2010年から50%の割増賃金が適用されていますが、2023年4月以降は、企業の規模に関係なく適用となっています。中小企業が多い建設会社では、この法改正の影響は非常に大きいものだといえます。
● 時間外労働の上限が規制される
2024年4月以降は、建設業界でも時間外労働時間に罰則付きで上限が設けられました。一般企業と同様、月45時間、年360時間が原則の上限です。
建設業界は、労働時間や休日労働の多い業種とされ、人手不足や働き手の高齢化が以前から問題視されていました。新たな若手人材を確保したくても、「建設業は過酷」といったネガティブなイメージ等があることから、なかなか人材を確保できないという企業は非常に多いでしょう。
建設業界では、これらの問題に対応するためには“人材確保”に力を入れることが先決だと考える企業が増えています。そのため、今までよりも好待遇(給料を上げる等)で新規人材を採用する対策がとられていることが多く、これがさらなる人件費の高騰に繋がると考えられています。
当然、人件費が高騰すれば、それが建築費に転嫁され、住宅やリフォーム・リノベーションの価格上昇に繋がることは間違いないといえるでしょう。
中古住宅購入への影響
中古住宅を購入する方にとって“建築基準法・建築物省エネ法改正”により、安心して住むことができる建物を得ることができるメリットがある一方、“2024年問題”の要素も絡み、費用が高額になったり、リフォーム・リノベーション期間が延びてしまうといったデメリットも考えられます。
さらに、基準をクリアするために追加工事が必要になったり、再建築不可物件に関しては、リフォーム・リノベーションができなくなる可能性や、手放す(売却)ことも難しくなるといわれています。
関連記事:【2025年 建築基準法・建築物省エネ法改正】空き家の活用法
これから中古住宅を購入し、リフォーム・リノベーションを計画している方々は、新しい法律の要件を理解し、適切な準備を行うことが求められます。
住み替えを成功させるのに重要なポイントの一つは、「資金計画」です。
中古住宅とはいえ新居を購入するには、多額のお金をやりくりしなければなりません。購入後のリフォーム・リノベーションを考えている方は、特に慎重になる必要があります。業者との打ち合せや設計段階においても、値上げの波は止まっていないのです。
法規制や時代の流れなど、判断の難しい時期かもしれません。ご自身で調べることはもちろん、信頼できる専門家のアドバイスを受けながら、しっかりと慌てずに準備を進めることが、満足のゆく住み替えへと繋がるでしょう。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。