高齢者に適した住まい ~ダウンサイジングのすすめ~

高齢者に適した住まいというと、「高齢者施設」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
高齢者施設には、「高齢者向け分譲マンション」や「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)・高齢者向け賃貸住宅」、「有料老人ホーム」などがあります。具体的にどのような施設を選ぶかは、予算や家族構成、要支援・要介護の度合いなどで人それぞれ異なるでしょう。
しかし、「住み慣れた自宅から離れたくない」、「家族に見捨てられてしまうんじゃないか」といった不安などから、高齢者施設に入りたくないという方もいらっしゃいます。
今回は「高齢者施設」以外に考えられる、高齢者に適した住み替え先を考えてみましょう。まだまだ元気な60代の方々など、老後の住まいについて悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
『ダウンサイジング』で人生にゆとりを
幼い頃は家の中を走り回っていた子どもたちも、やがて成人し独立していきます。使われない部屋やスペースは増えますが、日々の掃除など建物を維持する労力や負担は変わらずに続いていきます。シニア世代ともなれば、家族構成やライフスタイルが変わり、少しずつ住まいのミスマッチが表面化してくるでしょう。
「人生100年」といわれる時代です。子どもたちが巣立ってからご夫婦2人、あるいは単身で過ごす期間が30年以上に及ぶことは稀な話ではありません。その長い年月を、楽しく安全に暮らしていくためには、住まいの見直しが必要です。

その見直しのキーワードに『ダウンサイジング』があります。
ダウンサイジングとは、サイズ(規模)を小さくすることを指す用語で、人生の中では様々な事柄のダウンサイジングを考えることがあるでしょう。
住まいのダウンサイジングでは、「今よりも小さな住まいへの転居」を指します。物理的に小さな住まいへ転居するだけではなく、利便性を意識し、整った住環境で体力が衰えても暮らしやすい住まいを選ぶことが重要です。
持ち家と賃貸 それぞれのダウンサイジング
現在の住まいが持ち家か賃貸かにより、ダウンサイジングの方法が異なります。
持ち家の場合は、「建て替えor住宅改修リフォーム」もしくは「自宅を売却し、住み替える」ことでダウンサイジングすることができます。

建て替えや住宅改修リフォームをする場合は、これからも住み慣れた土地で暮らしていくことができますし、売却することになれば、金銭的な余裕が生まれ、新たにコンパクトで利便性の良いマンションを購入するもよし、身軽な賃貸住宅を選択することも可能です。
賃貸の場合は、今より小さくとも暮らしやすい広さの賃貸に住み替えることで、月々の家賃が抑えられ、金銭的にゆとりのある生活ができるでしょう。また、賃貸ではなくコンパクトで利便性のいいマンションを購入することで、資産を得るという方法もあります。
昨今では、先の人生を見据えて60代のうちに利便性の良い「駅前のマンション」などに住み替える方が増えています。

住み慣れた土地でのダウンサイジング
持ち家の方は、自宅を売却して住み替えるという方法もありますが、それでは住み慣れた土地を離れ、思い出の残る家を手放すことになります。先祖代々から続いてきた土地や建物であれば、簡単に売却することはできないかもしれません。
このようなケースでお悩みの方は、建て替えや住宅改修リフォームを行うことを検討してみてはいかがでしょうか。
●二世帯住宅に改築する
子ども世帯と同居できる二世帯住宅への改築も、住まいのダウンサイジングのひとつです。1階を親世帯、2階を子ども世帯の住まいにすることで、それぞれの住まいとして見れば、いずれもコンパクトになりますし、家族がそばにいることで安心して暮らすことができます。
●住みやすい平屋に建て替える
2階建ての戸建てであれば、老後に暮らしやすい“平屋”に建て替えることも住まいのダウンサイジングといえるでしょう。バリアフリー化しコンパクトになることで、家事の負担も減り安心して暮らせる住まいにすることができます。
参考記事:『バリアフリーリフォーム』で高齢者にも安心・安全な住まいを
●敷地の一部を活用して賃貸住宅を建てる
建て替えを検討する場合は、敷地全体の有効活用を考えてみてはいかがでしょうか。
例えば、自宅をコンパクトに建て替え、他の有効な宅地に賃貸住宅を建築します。自宅をコンパクトにすることで暮らしやすくなると同時に、毎月の家賃収入があることで先々の安心に繋がります。また、賃貸経営となると負担がある場合は、月極駐車場やコインパーキングといった選択肢もあります。
注意すべき点:敷地の面積や形状、建ぺい率・容積率、立地条件等に適した計画にすること、さらに解体費用や建築コスト、相続対策まで考えた判断をしていく必要があります。
住み替え先の候補
老後はライフスタイルにあった住まいへダウンサイジングするだけでは無く、“高齢期を過ごす場所”として、小さい頃に過ごした「故郷へのUターン」や、治安の良い「海外への移住」という考え方も増えているようです。
●故郷へのUターン

近年では、コロナ禍により人々の生活様式や行動、価値観が大きく変わり、年齢を問わず「故郷へのUターン移住」が魅力的な選択肢として注目されています。
Uターンを希望する理由として多いのが、「地元に帰りたい」というシンプルなものから、「都会の喧騒から離れたい」「自然が身近にある暮らしがしたい」「両親や親族の万が一の時に備えて、すぐに駆け付けられる距離で暮らしたい」ということが多いようです。
さらに、地方であれば都会と比べて物価や家賃が低いため、毎月の生活費を抑えることができますし、両親と同居となれば、経済的だけではなく様々な面で生活にゆとりを持つことができるでしょう。
他にも、長年培ってきた自分の経験とスキルを活かして「地元の経済活性化に貢献したい」と考える方や、「自分の店を持ちたい、起業したい」という夢を叶えるためのステージとして、地元を選ぶ方も増えているそうです。
●海外への移住

経済的な不安から、老後は日本よりも生活費のかからない海外で暮らす方が増えています。日本より物価の低い国に住めば、生活費を抑えることができますね。
物価の安さ以外に、治安の良さや温暖な気候なども重視する必要があります。年間を通して気候の変化が少なく気温差がない場所に住めば、衣服の種類も少なくてすみますし、暖房器具が不要な場所なら光熱費も抑えられるでしょう。
しかし、海外で生活することはたやすいことではありません。語学に自信のある方でも、習慣や価値観の違いで戸惑うこともあります。ですが、様々な経験を通して自分自身を成長させ、新しい自分との出会いにも繋がることは間違いありません。日本だと周りの目が気になってしまい、何か新しいことをするにも「この歳で…」とためらいがちですが、海外であれば、人目を気にせずチャレンジすることができるでしょう。
まとめ
現在の住まいが持ち家であれば、この先の建物の修繕費用等や相続の不安があったり、賃貸住宅であれば「賃料を払い続けられるのか」等、漠然とした不安があるでしょう。
こういった不安を抱えたまま高齢者といわれる年代になり、さらに要支援・要介護状態になってからの住み替え先を考えることになると、自分の希望とは程遠い環境や住まいで過ごすことになる可能性もあります。
老後の住み替えは、単なる引っ越しではなく、新たなライフステージに向けた重要な決断です。年齢を重ねるごとに住まいに求められるものは変わってきます。理想のシニアライフを想像して、住み替え先を選ぶことが大切です。
そして、これまで続けてきたライフスタイルを変えるということは、気力と体力が必要なため、元気なうちにダウンサイジングに踏み出すことが重要です。
今後の住まいについて、真剣に検討し、方向性を決めて準備をしておくことが、理想のシニアライフを過ごすことができる得策であるということです。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。