高齢者施設への住み替え ~老後の住まいの在り方~
高齢者と言われる年代になると、まだまだ元気ではあるものの老後の住まいについて検討することも増えるでしょう。現在の住まいを“終の棲家”にしたいと考える方がいる一方、「夫婦二人だけになり、家が広すぎる」、「一戸建ての管理が負担」、「もっと利便性の良いところに住みたい」など、ライフスタイルの変化に伴い“住み替え”を希望する方も増えています。
今回は、老後の住み替え先として考えられる“3つの選択肢”について、それぞれの特徴やメリットをご紹介します。「いずれは…」と考えている方は、どのような住み替え先があるのかを知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
老後の住み替え先 “3つの選択肢”
老後の住み替え先としては次のような選択肢が挙げられます。
購入して所有権を得ることができる「高齢者向け分譲マンション」。
家賃や初期費用、月額利用料を支払って入居する、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)・高齢者向け賃貸住宅」や「有料老人ホーム」などがあります。
住み替えをする時、ご自身が「自立した生活ができる元気な状態」なのか「介護が必要な状態なのか」ということで、必要な設備やサービス内容、選ぶ環境も変わるでしょう。健康状態や暮らしの自由度といったニーズに応じて様々な種類がありますので、ご自身の希望・条件の整理し、各施設の特徴やサービス内容を把握することから始めましょう。
高齢者向け分譲マンション
高齢者向け分譲マンションは、バリアフリー化が施され、高齢者が暮らしやすいように配慮された分譲マンションです。介護施設ではないため医療や介護についての基準はなく、サービス内容は物件によって異なります。
娯楽施設(温泉、プール、フィットネスジム、カラオケルーム、レストラン、図書室など)や生活支援(家事サポート、食事提供、見守りサービスなど)のサービスが充実していることが多く、スタッフが常駐し、ホテルのコンシェルジュのようなきめ細かなサービスを提供する物件もあるようです。中には建物内に医療機関を誘致し、緊急時でもスムーズに対応できる体制を取っている物件もあります。
入居条件は、基本的に自立した生活が送れる高齢者ですが、要介護や要支援の認定を受けている方でも入居できる物件があります。ただし、入浴や食事介助などの介護サービスは行われていないことが多いため、介護が必要な場合は、ご自身で外部サービスに依頼しなくてはなりません。
年齢条件は60歳以上や55歳以上など物件によって決まりがあることもありますが、その他には特に厳しい入居条件は設定されていないことが多いようです。
高齢者向け分譲マンションとはいえ、一般的な分譲マンションと同様に購入することで「所有権」を得て資産にすることができます。住宅ローンを利用することも可能で、購入後はご自身が入居することはもちろん、賃貸として貸し出すことや売却、相続を行うこともできます。
毎月かかる費用面でみると、一般的な分譲マンションと同様に管理費・修繕積立金などがかかり、固定資産税などの税金を支払う必要があります。また、物件によって異なりますが、フロントサービス、見守りサービスなどのサービス利用料、施設利用料など毎月かかる費用や、外部で介護サービスを依頼する場合には、介護サービス利用費がかかってきます。
シニア向け分譲マンションは、施設やサービスが充実している分初期費用(物件価格)が高くなる傾向があります。さらに月々のサービス利用料も考えると、シニア向け分譲マンションを購入する際には、先を見据えた資金計画を立てることが重要です。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)・高齢者向け賃貸住宅
サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)と高齢者向け賃貸住宅は、どちらも基本的に自立した生活を送ることができる高齢者を対象とした住まいです(要介護・要支援の方が利用できるサ高住もあります)。
サ高住と高齢者向け賃貸住宅は似ている点も多く、契約形態は同じ賃貸借契約になりますが、物件ごとに入居対象やサービス内容などに違いがあります。ご自身の健康状態と、今後「どんな生活をしたいか」を考え正しく選択したいところです。
【充実したサービスが特徴の「サ高住」】
サ高住は、国土交通省と厚生労働省が所管する「高齢者の居住安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正によって創設された制度で、2011年10月から登録がスタートしています。
高齢者が暮らしやすいようにバリアフリーに対応した賃貸住宅で、居室の広さや設備といったハード面の条件を備えるとともに、安否確認や生活相談サービスが義務付けられた高齢者向けの賃貸住宅です。
そして、サ高住には「一般型」と「介護型」の2種類があります。
一般型であれば、介護が必要になるまでは今までの暮らしとほぼ変わりない自由度の高い生活を送ることができ、介護が必要になれば、外部の介護サービスを利用することができます。
介護型では、施設スタッフから介護サービスを受けることができ、介護付き有料老人ホームと同様のサービスが提供されるため、介護度が高くなっても安心して暮らすことができます。
サービス内容は施設によって様々です。洗濯・清掃等、外出時の付き添い、買い物代行などのサービスも提供している施設もあります。どんなサービスがあり、利用料がいくらかを確認するようにしましょう。また、サ高住では食事提供の義務ではないので、食事サービスが必要であれば有無の確認が必要です。
サ高住を実際に探す場合は、市区町村の相談窓口や地域包括支援センターに問い合わせることもできますが、全国で募集しているサ高住が掲載されているサイトがあります。こちらで探してみるのも一つの手段ですね。
サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム/一般社団法人 高齢者住宅協会
【元気な高齢者が契約しやすい「高齢者向け賃貸」】
高齢者向け賃貸は、高齢者が安心して暮らせるよう、バリアフリー化や生活支援サービスなどに対応した賃貸住宅です。自立した生活を送れる元気な高齢者が対象なので、仕事を続けながら、あるいは趣味を楽しみながら暮らせるよう、安否確認や生活相談サービスなど様々なサービスが付いています。しかし、サ高住とは違い、ハード面や各種サービスが義務付けられているわけではありません。一般の賃貸住宅を高齢者向けに整えた住まいと考えるといいでしょう。
一般の賃貸住宅ですと、「高齢者」というだけで契約できない例は少なくありません。大家さん・不動産会社にとって家賃滞納、孤独死など高齢者をめぐるリスクを懸念し、表立っては出していませんが、実質、高齢者NGとしている賃貸住宅は多いのです。
参考記事:高齢者の“賃貸住宅”問題 ~借りることが難しい現状~
その点「高齢者向け賃貸」ならば、賃貸住宅でも高齢者だからといって断られることも、嫌な思いをする心配もありません。
あくまでも元気な高齢者が対象の住まいですが、軽度の介護が必要になってからも住み続けることが可能な場合もあります。物件によっては、医療や介護、看護などの事業所と連携があり、状況に応じて利用することができます。ただし、対応している介護度や入居・退去条件が異なるので、必ず事前に確認しておくことが大切です。
契約形態は、一般の賃貸住宅やサ高住と同じく賃貸借契約ですが、高齢者向け賃貸住宅では保証人にプラスして“身元引受人”を定めることが必要です。この身元引受人がいることで、万が一の時、大家さんのリスク(家賃滞納や孤独死など)がカバーされます。さらに、定年退職し無職だったとしても「預貯金」や「年金」も評価されるので、身元引受人を立てることができれば比較的スムーズに入居することができます。
もし、身元引受人を立てることができない場合は、物件によっては保証協会を利用するという方法もありますので確認してみましょう。
有料老人ホーム
有料老人ホームは、高齢者の心身の健康を保ち生活を安定させることを目的とした施設です。目的のためには欠かせない、食事、介護、家事、健康管理のうち、いずれかのサービスを1つ以上提供している施設を指します。
有料老人ホームには、介護付きや住宅型、健康型などの種類があり、入居者の健康状態やニーズに応じて選ぶことができます。年齢などの入居条件やサービス内容、料金も様々です。
有料老人ホームの費用には、入居時に支払う入居金と、毎月支払う月額利用料があります。入居金は施設を利用する権利(利用権)を得るために支払う前払い家賃で、月額利用料は、家賃、管理費、光熱費、食費が主な内訳となります。
そして、有料老人ホームでは「利用権方式」「建物賃貸借方式」「終身建物賃貸借方式」の3つの契約形態があります。
さらに、有料老人ホームでは様々なサービスが受けられます。食事、清掃、洗濯、入浴、排せつなどに介助が必要で、要支援・要介護認定が下りている方には介護サービスが提供されますし、医療機関との連携が施設運営基準に定められているため、定期診療や健康診断などの健康管理や、緊急時の救急対応も受けることができます。施設内にクリニックを併設している場合もあり、より手厚い医療サポートを提供している施設もあります。
有料老人ホームと同じような施設で、「特別養護老人ホーム(以下、特養)」がありますが、両者の違いはご存じでしょうか。どちらも高齢者が様々な介護サービスを受けながら暮らすことができる施設ですが、有料老人ホームは主に民間企業が運営する「民間施設」で、特養は社会福祉法人や自治体が運営する「公的施設」という違いから、下記のような違いがあります。
特養は公的施設のため、社会福祉の観点から、介護度の重い方(要介護3以上)や低所得者の方でも入居しやすい料金制度がとられています。しかし、施設によっては入居要件を満たしていても待機者が多く、入居までに時間がかかる場合もあります。
一方、有料老人ホームは民間施設のため、経営の観点から高齢者のニーズを満たすことに重点が置かれていると言えるでしょう。そのため、料金は特養より割高ですが、施設ごとに差別化を図っていて様々なサービスを提供しています。
まとめ
少子高齢化などの社会的背景から、老後の住まいについては誰もが自分で考え、決めていかなければいけない課題となりました。介護保険施行後、高齢者の住まいは種類が複雑になり施設数も増加しています。基本的な種類と特徴を理解するだけでも、非常に難しくなっています。
高齢者向けの住まいは、同じように見えても制度や仕組みは施設ごとに違います。パンフレットやホームページのイメージだけで決めるのではなく、関心のある施設には必ず見学に行くことが重要です。設備や雰囲気を見ることも大切なのですが、高齢者の住まい選びは目で見える部分以上に見えないソフト(サービス)面が大切になります。職員や入居者の様子なども含めて、「自分が暮らしたら?」と想像してみましょう。
住み替えてから「こんなはずでは無かったのに…」と後悔しないようにするためには、ご自身での事前準備が大切です。それには、元気なうちに取り組むことや、資金計画、今回のコラムの趣旨である「住み替え先の種類」を知ることも事前準備のひとつです。
ご家族や友人、専門家の力も借りながら、ご自身の生活スタイルに合った住み替え先を選ぶことで、後悔のない住み替えに繋がることでしょう。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。