高齢者の“賃貸住宅”問題 ~借りることが難しい現状~
高齢者の賃貸住宅を取り巻く環境は厳しく、特に単身高齢者への貸し渋り問題は深刻な状況です。収入があっても、保証人がいたとしても高齢者が賃貸住宅を借りることはとても難しくなっていると言われています。
今回は、賃貸住宅を住まいとする高齢者の現状や、高齢者が入居している物件を所有する、大家さんや不動産会社(管理会社)側のリスクを解説します。
今後、賃貸住宅に住むことを考えている方や、現在も賃貸住宅に住んでいる方はぜひ参考にして下さい。
高齢者が賃貸住宅を選ぶ理由
高齢者が賃貸住宅を選ぶ理由としては、子どもの独立や、配偶者が亡くなったタイミングが多いのではないでしょうか。高齢期と言われる年代に入ると、住み慣れた広い戸建ても不便さが増し、建物が老朽化すれば修繕も増え大きな出費が考えられます。そうなると自宅を売却し、コンパクトな住まいへ引っ越すということもあるでしょう。
コンパクトな住まいの中で、マンションへの買い替えを考える方もいらっしゃいますが、タイミングよく住みたい街で希望の物件に出合うというのはなかなか難しいことです。そういったこともあり、初期費用を抑えられ、エリアも選べる賃貸住宅を選ぶ方が多いのです。
高齢者へ貸し出すことの大家さんのリスクとは?
大家さんや不動産会社(管理会社)が高齢者へ賃貸物件を貸すことのリスクとは、どのようなものがあるのでしょうか。大きく分けると健康面及び、金銭面の不安によるものと言われています。
健康面であれば、身体機能が低下し、室内で転倒するなど怪我や事故をはじめ、認知症になってしまうことや孤独死の心配もあります。
実際に、孤独死した入居者に身寄りがなく、ご遺体の対処、滞納された賃料、リフォーム費用などを大家さんが全額負担することになり困っている、という相談を受けたことがあります。リフォーム後、新たに入居者を募集したものの空室が埋まらず、売却することになりました。
自然死又は日常生活の中での不慮の死だった場合、次の入居者への告知は必要ありません(※)が、次の入居者への心理的瑕疵の観点から、事前に伝えるケースもあるようです。
しかし、自然死又は不慮の死だったとしても、長期間にわたって発見されず放置され、特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合や、自然死又は不慮の死以外のケースは事前に告知する必要があるとされています(※)。そういった場合、なかなか次の入居者が見つからない現実も想定できます。 結果的に資産価値が下がってしまうのです。
孤独死に絡む問題以外にも、高齢者だからこその様々なトラブルがあります。
一昔前までは、家族や親戚などが近くにいたことで表面化していなかった問題も、今では大家さんや不動産会社(管理会社)が対応しなければいけない状況になっているのです。
本来なら大家さんや不動産会社(管理会社)にとって、高齢者は、いったん入居すると若い人ほど引っ越しすることが少なく、結果として長期入居してくれる最良の入居者のはずです。
しかし、その長期入居を高齢者に当てはめると、結果的に大家さんや不動産会社(管理会社)の負担が非常に大きくなる可能性があるのです。こういったことが、高齢者に貸すリスクとして考えられています。
高齢者が賃貸住宅を借りるための方法
「高齢者は賃貸住宅を借りにくい」現状をお話してきましたが、全く借りられないわけではありません。高齢者が賃貸住宅を借りるための様々な方法があります。
弊社の活動拠点である東京都立川市では、「たちかわ入居支援福祉制度」という取り組みがあります。
保証人になってくれる家族や親族がいない高齢者や障害者などの住宅の確保を図るために、賃貸住宅の賃貸借契約の際に、立川市社会福祉協議会が保証人となってくれる制度です。
対象者は、家賃などの支払い能力がありながら、判断能力の低下した認知症などのある高齢者や障害者で、市内に3年以上居住し、日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)を契約している(予定を含む)方、とされています。
さらに立川市居住支援協議会では、住宅確保要配慮者(※1)の賃貸住宅への入居に協力している立川市又は立川市に隣接する市に所在する不動産店を「不動産協力店」(立川市居住支援協議会)として登録・公開しています。
不動産協力店では、下記の「不動産協力店ステッカー」を店頭に掲示しているそうです。
他にも、シニア・高齢者を対象とした物件を紹介している募集サイトや、高齢者の住まい相談に特化した居住支援法人(※2)もあります。なかなか高齢者が入居できる賃貸住宅を見つけられない場合は、こういった専門の窓口を利用することをおススメします。
※1 住宅確保要配慮者・・・低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯等の住宅の確保に特に配慮を要する者と定められています。
※2 居住支援法人・・・住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するために、都道府県が指定する法人。
まとめ
今、賃貸物件に住んでいる中高年の方も、10年、20年と経てば高齢者になります。
孤独死や認知症といった問題を抱えやすい高齢者の一人暮らしですが、本人だけでこういった問題を防ぐことは難しく、家族や周囲の協力が欠かせません。
家族や周囲の人が定期的に声を聞く、顔を見に行くなど、体調や生活の変化を見逃さないようにすることや、家族が遠方ですぐに現地に駆けつけるのが難しい場合は、見守りサービスなどを利用することも解決策の一つです。そして、なによりも本人自身が、長く健康で暮らせるよう努力していくことが必要だと思います。
超高齢社会に突入している今、高齢者の賃貸住宅を取り巻く環境を理解し、解決策を見出すことで、高齢者が安心して暮らせる住まいを増やしていくことが急務でしょう。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。