負担となる実家の相続対策 ~空き家の売却~
日本全国の空き家は増加し続けています。これまで空き家といえば、人口減少が続く「地方の過疎地」での問題という認識が強かったように思いますが、近年では、県庁所在地がある都市部でも急増しているといいます。今まで人が住んでいた住宅が空き家になってしまうきっかけとは、どのようなものがあるのでしょうか。
国土交通省「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」によると、空き家の取得経緯は、全体の約55%が『相続』によるものとされています。親が亡くなり相続した家が、誰が住むわけでもなくそのまま放置され空き家になってしまっているということです。
放置されてしまう理由としては、少子高齢化や核家族化が進み、親が亡くなったあと実家を継いで居住する者がいない場合や、相続する子どもがいても、すでに持ち家を所有していて居住者がいない、ということがあげられます。
相続後、居住予定のない実家はどう扱うべきなのでしょうか。建物や庭の草木が荒れ果てて近所の迷惑にならないように管理するにも、売却するにも、様々な手続きや費用が必要になります。遠方に住んでいる場合はなおさら負担は大きいことでしょう。
そして、所有している限り固定資産税の支払いが続きます。生活の負担となる空き家にしてしまわないためにも、相続後は、「誰が住むのか」「売るのか・貸すのか」「解体するのか」など、ご自身が元気なうちに家族で話し合っておくことが大切です。
相続した方たちは実家が空き家になった場合、管理やメンテナンス、固定資産税の負担などを考慮し『売却』を選択することが多いそうです。今回は、空き家を売却する方法や注意点、ポイントなど相続対策について解説します。
空き家を売却する方法
空き家を売却するには様々な方法がありますが、今回は大きく分けて3つの方法を解説していきます。
【そのまま売却する】
空き家をそのままの状態で売却することを、「中古戸建」または「古家付土地」での売却といいます。手間がかからず、初期投資がかからないことがメリットといえますが、買主側がリフォーム費用や解体費用など、購入後のリスクを負担するので売却金額が低くなってしまう可能性があります。売却金額が低くても、時間やお金をかけずに早く売却したいという方にはオススメの方法です。
【リフォームして売却する】
リフォーム後に売却するメリットは、リフォームをすることで購入希望者に与える印象が良くなり、売却が有利になることがあげられます。壁紙や水回りなど新品にすることで、中古住宅ではありますが魅力が高まります。そして、リフォーム費用を上乗せして売却金額を設定することもできます。
反面、実施したリフォームがあまり受け入れられなかった場合、売却期間が長引く可能性があり、さらになかなか売却できないとなると、リフォーム費用を上乗せした金額で売却することが難しくなることも想定しておかなくてはなりません。
リフォームへのこだわりや流行りは多様化しており、中古物件を購入する多くの方は「安く物件を購入し、自分好みにリフォームしたい」と考えているといいます。「綺麗な物件だと目に留まることも多いが、かけた費用分高く売れるとは限らない」という事実がありますので注意が必要です。
【解体し、更地にして売却する】
建物を解体して更地にすることで、解体費用などの負担はありますが、一般的に「古家付土地」よりも高く売却できる可能性があります。築年数も経過し、古く、老朽化が進んでしまっている建物の場合はこういった方法も考えましょう。
建物を解体すると税金が上がってしまう、という話を聞いたことがあるかもしれません。いわゆる、固定資産税・都市計画税の軽減措置のことを指していますが、不動産売買契約においては引渡しの日(~12月31日迄の日数分を買主負担とする)を持って買主と日割り精算を行うことが一般的です。その為、解体して何年も経過してしまうということがなければ、それほど心配する必要はないでしょう。
また、全国の各自治体によっては老朽家屋等の解体費用が助成される場合があります。助成を受けられる条件は自治体によって違うため、空き家の所在する自治体のホームページなどで調べるか、各自治体へ直接問い合わせてみましょう。
空き家の発生を抑制するための特例措置
増加し続ける空き家を減らしていこうとする国の政策をご存じでしょうか。
空き家の発生を抑制するための特例措置(以下、空き家の3,000万円特別控除)とは、相続によって取得した家屋又は土地を、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に、譲渡所得から3,000万円を特別控除できるというものです。この空き家の3,000万円特別控除は、2024年に改正され要件が一部緩和されました。
最も大きな変更点として、改正前は耐震改修工事または建物の取り壊しを行ってから譲渡する必要がありましたが、譲渡後(譲渡日の属する年の翌年2月15日までの期間)に耐震改修工事または建物の取り壊しを行ったとしても適用されるようになったという点です。
解体費用を捻出できず売却を躊躇していた人も、売却がしやすくなったといえますし、転売や開発を目的とした買取専門の会社であれば、解体費用を負担してでも積極的に購入してくれる可能性も高まりました。
他にも、適用期限が2027年12月31日まで延長され、亡くなった方が相続の開始直前まで当該家屋に居住していたことも適用条件でしたが、老人ホーム等に入所していた場合(一定の要件を満たした場合に限る)も対象になりました。一方で、相続人が3人以上いる場合の特別控除額が、上限3,000万円から2,000万円に減額されました。
要件を満たすのであれば是非活用したいものですね。改正内容を踏まえ、状況に合わせて売却の方針を選択すると良いでしょう。
売却時の不動産会社の選び方
売却を成功させるために、信頼できる不動産会社選びは必要不可欠です。不動産会社選びに失敗してしまうと、思ったほど高く売れない、売れるまで時間がかかるなど、思わぬ事態を招くこともあります。
不動産会社は販売価格の査定のほか、購入希望者の集客や内覧、交渉、売買契約まですべてを売主の代わりとなって動いてくれる重要なポジションを担います。売主としては、できるだけ高く、好条件で売りたいものです。そのため、売主の要望を聞き入れながらも状況に合わせて的確な提案力があり、積極的に行動してくれる不動産会社を見つけることが重要なポイントになります。
不動産会社と一括りにいっても会社によって主な取り扱い業務は異なり、それぞれ得意・不得意があります。そもそも賃貸業務だけに力を入れていて、売買業務はほとんど行わないという会社もありますし、買取をメインに行っている会社もあります。
また、売買仲介をメインとしている会社でも、土地の売却が得意、マンションの売却が得意など、不動産会社によって得意とする物件が異なる場合もあります。売却方法を含めて、あなたの物件を得意とする会社を選ぶようにしましょう。
そして、不動産会社へ売却を依頼する際は、複数社へ同時に査定を依頼します。その中には、大手不動産会社や地元の不動産会社も選択肢に入れましょう。
それぞれの強みとして、大手不動産会社は、安心感や行き届いたサービスの良さなどがありますし、地元不動産会社は、地元ならではの情報力や独自のネットワークなどをもっている場合もあります。様々な強みをもった複数の不動産会社で査定することで、売却額の相場をつかむことができ、査定書の内容や、売却額に納得できる根拠を示してくれているかどうかで、不動産会社の良しあしなども判断できるようになります。
また、担当者との相性も重要になります。なぜその売却額になったのかを明確に説明でき、納得できる回答ができる担当者であれば、不動産会社を決定するうえで重要な判断材料になるでしょう。
相続対策まとめ
土地や建物は資産価値の高い財産ですが、相続したとしてもメリットばかりとは限りません。誰も住むことがなく空き家になってしまう場合は、様々な活用法の中から「売却」を選ぶことも多いでしょう。ただし、簡単に売却できるとは限りません。売却以外の様々な活用方法を知ることや、協力してくれる不動産会社や専門家を見つけることも大切です。
売却のために不動産会社を探していたとしても、売ることが最もよい資産活用の方法であるか、一緒に考えてくれる不動産会社や専門家もいます。相続対策の資産活用の観点で、最も良い方法を提案してくれるということは、今後、信頼がおけるパートナーになってくれるのではないでしょうか。
- 執筆・監修
須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役)
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。