不動産相続

『告知事項あり物件』とは? 事故物件を相続することになってしまったら

「告知事項あり物件」とは、物件に欠点(瑕疵)があり、契約前に告知する必要がある物件のことです。物理的な瑕疵としては、雨漏りや基礎のひび割れ等、建物の構造的問題や土地自体の問題が挙げられますが、物件内(室内や共有部分)で“人が亡くなってしまった”事例を主に「心理的瑕疵物件(しんりてきかしぶっけん)※」といいます。

※「事故物件」と呼ばれることもあります。

実際の取引にあたっては、購入・借りる側に心理的な抵抗が生じる可能性があり、多くの方は避ける傾向にあるのではないでしょうか。

不動産を所有している方、賃貸アパート・マンションの賃貸経営を行っている大家さん方は、こういったワードに敏感な方も多いかと思います。

今回は、「心理的瑕疵物件(事故物件)」を相続することになる方や、現在所有していてお困りごとがある方へ、対処方法や解決方法を解説していきたいと思います。

『心理的瑕疵物件』とは

「告知事項あり物件」といわれるものは、人が亡くなってしまった物件を指すだけではありません。

都市計画法や建築基準法に違反している場合が該当する「法的瑕疵物件」や、近隣に墓地や火葬場などの“嫌悪施設”、騒音や悪臭のある“迷惑施設”、さらに指定暴力団構成員等が居住している立地や物件は「環境的瑕疵物件」といわれます。

「心理的瑕疵物件」は、物件自体には問題はないものの、人が亡くなってしまったことで「心理的に抵抗を感じる恐れがある物件」ということになります。事故や事件が絡むことが多いため「事故物件」と呼ばれることも多くなりました。

しかし、捉え方は人それぞれですので、これらの物件が全て悪いというわけではありません。

『心理的瑕疵物件』不動産会社の告知義務

心理的瑕疵物件の定義や不動産会社の告知義務については、2021年10月8日に国土交通省が策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」に基づいています。

このガイドラインは、不動産取引における告知義務の基準を明確化することを目的としており、人が亡くなってしまった物件の取引に対して告知義務の対象となるケースは、下記のようなものがあります。

一方、告知義務の対象外となるケースには、下記のようなものがあります。

上記のことから、人が亡くなった物件でも告知義務の対象ではない事案があることが分かります。

しかし、告知義務の対象外とされる老衰や持病、病気による自然死や入浴中の溺死、階段での転落死である不慮の事故などでも、発見が遅れ、長期間放置されてしまったことで、特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合は告知義務が生じることになります。

このガイドラインが制定される前は、告知義務に明確な基準がなかったため、不動産取引の現場で様々なトラブルが発生していました。取引対象となる物件に不幸な出来事(心理的瑕疵)があったとしても、解釈や扱い方が宅建業者によって差があり、購入・借りる側の方へ告知するかどうかもばらつきがある状態だったのです。

このガイドラインが制定されたことで、事実を知らないまま消費者が購入、又は借りるといったケースは減ったといえるでしょう。

『心理的瑕疵物件』告知義務の期間

心理的瑕疵物件で告知義務の必要があっても、3年前の事案と10年以上前の事案では、買主・借主の判断に影響を及ぼす度合いが異なるのではないでしょうか。

ガイドラインでは告知期間について以下のように明示されています。

賃貸物件の場合は、事案の発生から概ね3年経過すれば、法律上の告知義務はなくなります。

売買物件の場合は、告知義務の期限は設定されていません。理由は、売買物件の取引の場合、心理的瑕疵があると知らされないまま購入したことによるトラブル発生時の損害(程度)が大きい可能性が高いと考えられているためです。取引の相手方等に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、告げる必要があるとされています。

『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』/国土交通省

『心理的瑕疵物件』の現実

ガイドラインが制定される前の曖昧に対応していた最大の理由として、心理的瑕疵を抱えてしまうと、その後の取引が困難になるケースが増大するためです。

賃貸物件を所有する大家さんや、管理を請け負う管理会社にとっては、事実を告知することで新たな入居者が決まらず、賃料を大幅に下げたりしなくてはいけないかもしれません。

賃料を下げたことで入居者が決まれば良いのですが、心理的瑕疵の内容によっては、賃料を再度上げることは厳しい状況となります。メディアで大きく取り上げられるような事件があった建物は、該当の部屋以外の入居者の退去も増えるかもしれません。

賃貸業界では、一度心理的瑕疵を抱えてしまうと“いわくつき”の物件と定着してしまいがち。たとえ、告知義務の対象外である事案だったとしても、近隣の噂になり空室期間が長期化する可能性もあるでしょう。

また、所有していた実家が心理的瑕疵を抱えてしまい、誰も住まないことを理由に「賃貸物件として貸し出したい」と考えても、ハードルは高いことがお分かりいただけるかと思います。最終的には、建物を解体し、更地にすることで売却を行うといったケースも少なくはありません。

高齢者の賃貸住まい、入居が難しい訳とは!?

高齢者が賃貸物件を借りる、ということはとてもハードルが高く社会問題となっています。その最大の理由として「心理的瑕疵物件」になる可能性が高いと考えられているからです。

参考記事:高齢者の“賃貸住宅”問題 ~借りることが難しい現状~

しかし、高齢者は今後も増えていく一方です。高齢者を孤独にさせないこと、地域で見守る体制を整えていくこと、個人情報の取り扱いが厳しい現代でどのように課題解決をしていくのかを早急に対策を立て、そして行動に移す必要があるように思います。

そんな中、弊社の活動拠点である東京都立川市では「一人暮らし高齢者調査にご協力ください」として、一人暮らしの高齢者の生活状況や健康状態を把握し、緊急時の安否確認や災害時の支援に役立てるため、令和7年2月~4月にかけて調査を行うそうです。

『広報たちかわ 令和7年2月10日号』7ページ「お知らせ」参照/立川市

こういった取り組みが各地に広がり、一人暮らしの高齢者に万が一のことがあってもすぐに対応できる地域が増えることを願うばかりです。その結果、高齢者が賃貸住宅を借りるハードルも下がるのではないでしょうか。

まとめ

「心理的瑕疵物件」を相続することになった、所有している建物で人が亡くなってしまった等、起きてしまった事件・事故の程度や、前述した事故物件の現実も視野に入れ今後の対策をしっかり考える必要があります。

悩む時間が長くなればなるほど、誰も住まない“空き家”を増やす可能性が高まります。そのため、早めに売却することや、建て替えることを想定した決断が必要です。

例えば、郊外にある築古アパートなどでは、1~2割の入居者が残っているような廃墟寸前の状態といったケースも珍しい話ではありません。事件・事故等による心理的瑕疵の話に関わらず、廃墟寸前のように見える不動産も要注意です。

なぜなら、維持・メンテナンスの計画を必要とした賃貸経営を行える体制ではない状況の不動産所有者(賃貸経営者)が増えており、そういった方が所有する物件は、ある意味“心理的瑕疵相当”といえる状況になってしまうことも多く、さらに空き家を増やす原因となり得るからです。

「心理的瑕疵物件」を所有することになったり、上記のような管理不足(賃貸経営ができない状況)が予測される場合でも、あまりネガティブイメージにとらわれることなく、解決策を見出すことが重要です。

個人で解決していくことは難しいかもしれませんが、相続不動産や賃貸経営・建築(リフォーム)関係の専門家を頼る等の行動が必要。こういった状況を一緒に解決するために、弊社のような『住まいの専門家』がいるのです。一歩踏み出すことで、解決の光が見え、不安や心配事を減らすことができるかもしれません。まずは、経験や知識のある専門家に相談することをおススメします。

須崎 健史
執筆・監修 須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役) 宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。