不動産相続

「負」動産の相続 ~親と子のコミュニケーションが重要~

皆さんは、「不」動産ならぬ「負」動産(ふどうさん)という言葉をご存じでしょうか。近年では社会問題としてメディアにも取り上げられ、知っている方もいらっしゃるかもしれません。

「負」動産とは、需要が少ないために売却が困難であり、固定資産税や管理に要する費用など、金銭的な負担がかかってしまう不動産のことを指します。

今回は、「負」動産を相続する可能性のあった方からのご相談を紹介します。同じような負動産を所有している方、相続の可能性がある方はぜひ参考にして下さい。

親の所有している不動産を把握していますか?

親が自宅以外に所有している不動産を、子どもが知らないというケースは珍しい話ではないといいます。特に「負」動産といわれる、資産価値が低く、売却が困難である不動産であれば、親から話すことは憚られるのかもしれません。

今回のご相談は、首都圏近郊の別荘用地を処分(売却)したいとの内容で、両親の年齢からも「相続対策を考える時期」と感じている息子さんからのご相談でした。

現在は都内(持ち家)にお住まいで、約38年前に親が投資用として購入した別荘用地。購入した不動産会社からは「必ず値上がりする」といわれていたそうですが、残念ながら価値が上がることはなく、ここ10年くらいは土地の存在を忘れてしまうくらい放置状態だったようです。

息子さんは、この土地の存在は知っていたそうですが、近ごろは土地の話をすることもなく、所有者である父親もあまり触れてほしくないような感じだったそうです。

しかし、親の年代も70代後半に差し掛かり、認知症の心配や相続のことも考えなければいけません。そういった中であまり乗り気ではない父親を連れてご相談にいらっしゃいました。

バブル期の不動産購入

さて、実際の相談内容に移りましょう。

まずは現状を把握するために、所有者であるお父様へヒアリングを行いました。

●以前は地場の不動産会社が管理してくれていたが、いつしか連絡を取り合わなくなり現在は放置状態である

●所有者である父親も、以前に売却をしようと試みたが、不動産会社より「広告宣伝費」がかかり、費用をかけても売却できるか分からないと言われ断念

●固定資産税の支払い通知がきていないため支払っていない

息子さんとしては、将来的に利用する予定もないため父親が元気なうちに処分(売却)しておきたいとのご希望でした。しかし、お父様自身が「不動産会社に騙された」との受け止め方をされていたため、お父様の意向を聞きながらではあるが息子さんを主導で進めていくことにしました。

実はこのようなケースは決して他人事ではなく、表面化されていないだけで現実的に少なくない話だと思われます。

1970〜1990年頃の話としてよく耳にする「土地の値上がりを期待」しての不動産購入。世の中はバブル期ですね。そんな景気のいい話も多かったと思います。まさにその時代にそのような不動産が今となっては「負」動産となり、購入した方々も70代~80代と相続を考える時期になっているのです。

売却に向けての調査

不動産を売却するためには、「現地の調査」を行わなければなりません。今回、実際に行った調査内容や問題点をまとめてみたいと思います。

所有者の手元にある書類(謄本・公図・測量図など)が古かったため、法務局で再取得をした上で実際に現地へ足を運んでみると、竹・草木が約2m近くまで生えており、長期間「管理不全状態」だった現実を目の当たりにしました。

実際の現地

事前のヒアリングにおいてこのような状態になっていることを予想していたため、地場業者へ伐採等の見積もりを依頼しておきました。

大きな分譲地だったのでしょう。販売用に区画整理もされていますが、実際に建物が建っている区画は少なく、残念ながら人が集まることのなかった現実が見て分かります。

空き地も多く、相談者の土地のように管理されていない荒れた土地や、反対に伐採を定期的に行っているのであろう区画の中には、管理会社の看板が立っている土地もあります。その中には「販売中」の看板もいくつか見られました。

事前に現地の取引事例を確認したところ、2年以上前から売却中になっている情報などもあり実際の取引が非常に少ない状態でした。中古物件の売却実績はありましたが、今回相談を受けた不動産は更地のため、とても難しい判断になったことは事実です。

問題発生! 売却するのに費用がかかる!?

調査を進めるにあたり、約38年前ということや、当時の不動産・建築業界のいい加減さからなのか、いくつかの問題が発生しました。

問題点のひとつが境界石です。

初めて現地へ行ったときは竹・草木に覆われていて、人が入れる状態ではなく、道路面の境界石は確認できましたが、奥地については伐採後に確認することとなりました。

道路面2カ所の境界石 ※実際の画像

伐採後、困ったことに伐採業者からの報告で、1カ所の境界石が破損していることが分かりました。

境界石は、隣接地や道路との境界を示す標識です。隣接地との境界を明確化することで、所有する土地の範囲を把握することができ、第三者とのトラブルを防ぐための重要な役割があります。

今回のように境界石が破損してしまった場合は、地積測量図で確認を行ったうえで、土地家屋調査士に復元を依頼することになります。復元にかかる費用は所有者負担となります。

相談者には事前に「境界明示は売主側の役目」でもあることを説明しており、ご納得いただいたうえで復元することができました。

もうひとつ…、

それは、水道埋設管の引き込みです。

この頃には、並行して進めていた“買い手探し”で、「水道埋設管が宅地内に引き込み済みであれば前向きに検討したい」との話もあった事から、万が一引き込みがなかった場合、所有者である相談者の費用負担が大きくなることが予想されました。

早速、役所(水道局・下水道局など)にて調査を進めましたが、保管されている資料からは引き込みの有無、さらにおおよその位置すら把握できない状態…。役所の資料の保管状況に問題があるというより、保管資料と現地の状況に相違があり、資料では判断できない状況でした。

水道局の担当者や現地をよく知る水道工事の設備業者に相談したところ、引き込みされているかどうかは「実際に掘削しないと分からない」との回答を受けた為、業者には依頼せずに私自身で掘削することにしました。

後日改めて現地へ赴き、水道管を傷付けないよう数種類のスコップを用意したうえで慎重に掘削を行いました。道路側の境界の近くを念頭に、両サイドから掘ること2ヶ所目で掘り当てることに成功。水道管には青いテープで自治体名が記載されており、その記載から1984年に埋設したものだと分かりました。

掘削して見つけた水道埋設管 ※実際の画像

念のため、写真と動画を撮影し水道局へ。調査時に対応してくれた担当者に見せたところ、「水道埋設管で間違ありません」という回答をもらい、水道局担当の方とはお互いに少し興奮してしまったことを鮮明に覚えています。

水道局側も、宅地内に入っているかどうかも分からず、正確な資料もないうえ(当時の手書き図のみ)、局内に当時の事を知る人間もいない…そのような状況で、水道埋設管が約40年ぶりに顔を出したのだから興奮するのも当然かもしれません。

注)今回のケースでは弊社で対処しましたが、水道設備業者に依頼することが望ましい事案といえます。その際の費用負担があることは念頭に置く必要があります。

固定資産税がかからない土地

相談者からの事前のヒアリングで、「固定資産税を近年払っていない」というお話がありました。もう長いこと通知もきていないとのことだったので、「課税標準額の低い土地」ではないかとも考えましたが、相談者も引っ越しなどで移動があったため、通知が届かず支払いが滞っている可能性も考えました。

役所で調べたところ、やはり「課税標準額の低い土地」に該当していることが分かり、固定資産税はかかっていませんでした。

固定資産税には免税点というものがあり、不動産の課税標準額がこの基準を下回ると固定資産税はかかりません。土地では「30万円未満」、建物がある場合には「20万円未満」と定められています。

固定資産税の概要/総務省

前述した、境界石や水道管の問題点が解決の方向に向かっていたため、固定資産税の問題も解決し一安心です。一番難しいと考えていた買い手もちょうど良いタイミングで見つかり、無事に売却を終えることになりました。

販売価格は購入時よりもはるかに下がり、伐採や境界石の復元等の費用負担でほぼ利益はないものの、大きな費用負担もなく解決することができました。相談者とそのお父様も「心配の種がなくなった」と喜んでいただけました。

親と子のコミュニケーションが重要

息子さんからの相談、早い決断と即行動といった経緯が功を奏し、今回は早期に解決することができました。

実際、このようなケースでは「親から何かしらの行動へ移すこと」は、様々な相談を受けている中でとても難しい事だと私は感じています。

理由は単純で、「面倒くさい」「忘れたい、忘れていた」「お金かけたくない」「自分が死んだ後、誰かが何とかするだろう」などと考える方がとても多いのです。

そういう方達でも、「子どもには迷惑をかけたくない」と言います。しかし、それは親自身のプライドの話であって、子どもへの思いやりや遠慮とは少し違うのではないかと感じてしまいます。

その思いやりや遠慮は、「この先大変な思いをするのは子ども」という認識がない方なのではないでしょうか。残された子どもは、聞いたことも見たこともない財産を相続することになり、さらにそれが“負動産”だった場合はなおさら苦労するのです。

ですので、私は子どもから親御さんへ積極的に話しをすることをおススメします。

もしかしたら親御さんも気にしつつ、負担をかけるから…と話しづらくなっている可能性もありますので、元気なうちに一緒に解決する道を見つけていきましょう。

※今回の内容は相談者から承諾を得て掲載させていただきました。

須崎 健史
執筆・監修 須崎 健史(株式会社bluebird代表取締役) 宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/福祉住環境コーディネーター2級/国内旅行業務取扱管理者
2023年、空き家・空き店舗を利活用した「オフィス兼アトリエ」を立川市若葉町にオープン。住宅業界に25年以上身を置き、そこで培った幅広い知識と経験・資格を活かし、住生活アドバイザーとして空き家対策や利活用、相続対策、高齢者の住まいなど『福祉・介護×住まい』について、地域の課題解決に取り組んでいる。